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TOSKA AIRBATTLE -トスカ航空戦- 目次 ブリーフィング 全体マップ チケット設定 陣地 登場兵器 解説 史実 コメント ブリーフィング French Bombers attacked Zeppelin dockyards and Hangars several times in the War. There were different kinds of planes used. The Goal of these Attacks were to destroy the Zeppelins and their Hangars. To win, the french have to destroy the Hangar, the Zeppelin tower and the docked Zeppelin, before their tickets run out. The Germans have to defend the Hangar, the Zeppelin tower and the Zeppelin until the french tickets run out. 大戦中、フランス軍爆撃機はツェッペリン飛行船の工場と格納庫を数回爆撃した。攻撃には多種類の航空機が使用された。攻撃の目標はツェッペリンと格納庫の破壊であった。フランス軍はチケットが無くなる前に格納庫、ツェッペリン・タワー、ツェッペリン本体を破壊せよ。ドイツ軍はフランス軍のチケットが無くなるまで格納庫、ツェッペリン・タワー、ツェッペリン本体を防衛せよ。 全体マップ チケット設定 陣営 比率(COOP) 減少速度(COOP) -% (-%) - (-) -% (-%) - (-) 陣地 陣地名 初期陣営 価値 白旗時間 確保時間 補足 --------------------未編集-------------------- - - - --------------------未編集-------------------- - - - 登場兵器 陸上兵器 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- 海上兵器 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- 航空兵器 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- 固定兵器 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- その他 --------------------未編集-------------------- --------------------未編集-------------------- 解説 未編集 史実 未編集 コメント コメントは最新20件が表示されます。 (過去のコメントを参照) 名前 コメント すべてのコメントを見る
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GRAND BATTLE ◆gsq46R5/OE 響くは鋼の旋律、散るは鮮やかなる火花。 サーヴァントと人間が刃を打ち合わすという、本来あり得ざる光景が城下の地にて繰り広げられていた。 攻めるは僧衣の神父――その内に冒涜の本性を秘めたままの求道者。 唯でさえ人間離れした身体能力を強引に増強したことで、今の彼は怪物めいたポテンシャルを発揮している。 対し、それを迎え撃つのは誉れも高き騎士王アーサー……もといアルトリア・ペンドラゴン。 堕ちた騎士の聖剣は未だ全霊を発揮できずにいるが、それでも彼我の戦力差は圧倒的なものがあった。 今の綺礼は、彼らしからぬ勢いでセイバーに対し攻め手を連打している。 それは考え無しの行動ではなく、彼が義憤の念に突き動かされているという訳でもない。 宝具、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)。 片割れを失い、駆り手たる征服王を失っていることを加味しても近代兵器級の破壊力を持つ宝具である猛牛を、先刻この騎士王は事も無げに斬首してのけた。 負傷など一切ナシに、だ。 そんな相手を攻める側に回すような恐ろしい賭けを、綺礼はしたいとは思わない。 ではどうするか。答えは、攻めに回る隙を与えないという単純明快な結論へと帰結する。 綺礼の僧衣は銃弾程度であれば易々止める戦闘服も同然の強度を持つが、騎士王の一刀の前にはまず間違いなく無力だろう。 あちらにしてみれば人間の拳など、一撃二撃貰った程度はどうということもないのだろうが、あくまで神秘の通わない人間である綺礼はその逆だ。 ただの一撃、下手をすればかすり傷でさえ致命傷になり得る。サーヴァントと人間の間に存在する力の格差は、それほどまでに広く絶望的なものなのである。 攻撃を加え続け、相手を防御に徹させる。とはいえ綺礼の鍛え抜かれた拳は、今のセイバーにとっても無視できる威力ではない。 この島で行われているのは殺し合い(バトル・ロワイアル)であって、聖杯戦争ではない。 その事実こそが皮肉にも、今の綺礼にとって最大の追い風として機能していた。 神秘の通わない攻撃は、サーヴァントに通じない。 聖杯戦争についての知識を少しでも持つ者なら誰もが知っている常識だ。 この性質があるからサーヴァントには近代兵器の飽和火力攻撃は通じないし、徒手空拳など本来以ての外。 しかしこれでは、当然殺し合いのゲームとしてはアンフェアが過ぎる。 力の持たない一般人がサーヴァントを倒したければ、どうにかしてサーヴァント同士を潰し合わせるしかないというのだ。これではあんまりな話だろう。 そこに配慮してか、この殺し合いにおいては如何なる理屈を用いたのか知らないが、サーヴァントの霊的防御と呼ぶべき機能がほとんど完全に取り払われていた。 目の前の騎士王は確かにセイバーのサーヴァントだが、今の彼女は銃でも殺せる、爆弾でも殺せる。極論を言えば、錆びて使い物にならないナイフでも、突き立てることさえ出来れば殺害することが可能だ。 とはいえ、だからといって彼らが弱者の側に立たされたのかというと決してそんなことはない。 人外の膂力や恐るべき肉体性能、宝具の脅威も健在だ。攻撃が通じるようになったからといって、やはり普通の人間が相手取るには些か手に余る。 そのことは、言峰綺礼ほどの男をしてほとんど死線ギリギリの戦いを強いられていることから窺い知れよう。 ただ、それでも勝機はゼロではない。 綺礼の振るうアゾット剣が、肉体に染み込ませてきた功夫(クンフー)のスキルが、双方共に騎士王を殺害できる可能性を有している。……後は如何にして、『詰め』の段階にまで導くか。それが出来なければ、綺礼は予定調和のように不可視の聖剣に斬り伏せられてお終いだ。 アゾット剣を袈裟懸けに振るう綺礼に、セイバーは眉一つ動かさずに剣を合わせて対処する。 これは、綺礼にとって完全に予想通りの流れだった。 セイバーも持ち前の直感力でそれを察知し、速やかにその敏捷性を最大限発揮した回避へと移行する。 次の瞬間、轟然と振り上げられた綺礼の左端脚が、コンマ数秒前までセイバーの頭があった場所を砲弾の如く通過した。 英霊の彼女をして息を呑むほどの一撃。現代に生きる格闘家の中でも、綺礼の技は破格の域だ。 霊的防御の活きている状態ならばともかく、矮化した状態のサーヴァントであれば、直撃は十分痛打になり得る。 セイバーはバックステップで距離を取る。それを追うように、綺礼が今度は反対の脚で回し蹴りを放った。 次に驚かされるのは綺礼の番だ。 後退動作の終了とほぼ同時に着弾する筈の蹴撃が、さも当然のように頭を僅かに反らすだけの動作で回避される。 デタラメとしか言いようのない反射神経に、さしもの綺礼も舌を巻いた。 そして、その驚嘆は攻めに徹していた綺礼にとって致命的ともいえる隙に繋がる。 セイバーは最高峰の拳士にすら優るだろう瞬速で綺礼の下へと吶喊し、見えざる剣を振り被った。 どうにか防御だけは取れたものの、受け止めたアゾット剣越しに腕が軋むほどの威力だ。 それどころか、アゾット剣自体がミシミシと嫌な音を立ててすらいる。 このまま圧し切られる事態だけは避けたい綺礼は、先のセイバーの動きを真似るかのように後退を図った。 だが。 「――ッ」 綺礼が逃げる側に立たされた以上、必然、追う側は恐るべき騎士王以外に有り得ない。 そして流石の綺礼でも、あの超人的な動作を真似て完全に彼女の攻撃を回避するというのは不可能だった。 意識が、紅林遊月から受け継いだ令呪へと注がれる。これを使い、瞬間的なブーストを行うのが最善手なのは明白だ。 されど、これは綺礼にとっての虎の子――文字通りの切り札である。そう易々切るのは避けたい。 しかし、躊躇っていれば此処で命そのものが尽きてしまう。致し方ないか、と綺礼が令呪を発動させかけた、その時。 「盛り上がってるとこ悪いが……てめーの相手はそいつだけじゃあねえぜ」 真横から、超高速の拳がセイバーを襲った。 咄嗟に彼女は足を止め、剣をそちらへと向けることで対処に成功したが、その顔には苦渋の色が滲んでいる。 「傷は大丈夫なのか」 「これが大丈夫に見えるか、言峰」 「……愚問だったな」 「そういうことだ。だから、とっととこの女をブチのめすぞ」 乱入者――空条承太郎の肩の裂傷は止血されておらず、時間経過と共に彼を消耗させていく。 普通なら綺礼に任せて退くべき場面だが、そうするつもりはないと彼の力強い眼差しが告げていた。 綺礼と承太郎はまだ一日も共に過ごしていない間柄だ。 それでも綺礼は、この空条承太郎という男がこういう場面で退かない人物だと強く理解していた。 彼がその気ならば、止める理由はない。綺礼はすぐに会話を打ち切り、眼前のサーヴァントへと意識を再度向ける。 あの奇襲ですら、彼女は不覚を取らなかった。やはり手強い――彼女はこの会場で、間違いなく最強クラスの脅威だ。 「何人増えようと――」 セイバーが動いた瞬間に、承太郎のスタープラチナが「オラァ!」という威勢の良い雄叫びと共に拳を打ち込む。 それは彼女の肩を僅かに掠めたが、直撃には至らなかった。 そして次の瞬間には、セイバーは綺礼を狙って刃を振るっている。 速度では承太郎が一番厄介だが、攻撃の威力ならば綺礼だ。 サーヴァントの性質が弱体化している以上、最も火力の高い敵から斃していくべきだと彼女は判断した。 「――同じことです」 サーヴァントとしての基礎性能の高さが、今のセイバーを支える最大の強みだった。 何しろ彼女の弱体化は、非神秘攻撃への防御を失っただけには留まらない。 今も左肩を苛み続ける癒えない刺傷――かつて『輝く貌』と呼ばれる騎士が振るっていた、呪いの黄槍による外傷。 かの黄槍が健在である限り癒えを知らないこの傷がある限り、セイバーは切り札たる聖剣の真名解放を使えない。 故に、今の彼女はサーヴァントとしての性能、膨大な戦闘経験に裏打ちされた騎士としての強さで目の前の二人に対処することを余儀なくされていた。 ……そんな有様でもこの強さというのは、流石に最優の英霊というべきであろう。 避けたと確信していた綺礼に、駄目押しの『もう一歩』で強引に剣閃を命中させる。 しかし入りが浅い。与えられた損害は胸板を僅かに切り裂いただけに留まり、致命傷には程遠かった。 ぐ、と小さく呻く綺礼は、切り裂かれて血の滲み出る僧衣を抑えるような隙は晒さない。 返す刀で再び破滅的な威力の蹴り上げを放ち、アゾット剣の刺突で以って着実に傷を与えにかかる。 それすらも余裕を持って避けてのけるセイバーだが、何も綺礼は無策で手足を振るっていた訳ではない。 「な……」 セイバーが確保した筈の距離。拳士相手なら十分に安全圏である筈のそれが、一瞬にして脅かされた。 予備動作も何もなしに、綺礼は殆ど地面を滑るような動きで取られた距離を奪い返したのである。 八極拳において『活歩』と呼ばれる技術。 ただし決して容易く会得できるそれではなく、拳の世界でも秘門と称される離れ業だ。 (……拙いッ!) この後に起こる事態を、セイバーは瞬時に予見して行動に打って出た。 それは一見すると闇雲に剣を前方へ振るっただけに見えるが、れっきとした彼女の講じられる最善策に他ならない。 事実綺礼は、その牽制によって動作の停滞を余儀なくされた。彼はこれからセイバーの懐まで潜り込み、最適の間合いから必殺の一撃を放つ算段だったのだ。 普通の人間や魔術師が相手なら綺礼は防御しながらでも強行突破を図ったろうが、宝具を握ったサーヴァントが相手となるとそれは途端に自殺行為に早変りする。 落下してくるギロチンを素手で受け止めるようなものだ。あまりにもリスクが高すぎる。 無論、綺礼も只では起きない。 結果がどうあれ、セイバーが今の一手に対して多かれ少なかれ動揺したのは事実なのだ。 勝負を決めることは出来ずとも、この好機は逃せない。勝利を望むならば、絶対に。 不可視の剣が通り抜けたのを空気を通じて伝わってくる圧から感じ取り、やや遠い位置からの正拳突きを放つ。 ――それは見事にセイバーの胸へと吸い込まれ、彼女の鎧を凹ませ、内の肉体に少なくないダメージを与えた。 スタープラチナの拳を受けた時以上の衝撃に、セイバーは目を見開いて胃液を吐き出しその場を飛び退く。 そこに間髪入れず押し寄せるのが、今比較対象としたスタープラチナの猛打だった。 受け止める分には容易いが、必然として隙を生んでしまうのが厄介過ぎる。 承太郎の加勢で形勢は逆転し、セイバーが押され始めていた。 「だが……甘すぎる!」 「なに……!?」 それでも、これだけのことで人間が押し切れるようであれば、彼女は最優の英霊などと呼ばれてはいない。 風王結界(インビジブル・エア)――聖剣の刀身を隠す風の鞘が、その波長を大きく変容させていく。 その末に振り下ろされる衝撃から、ほぼ同時に追撃を選択したスタープラチナと綺礼は逃れられなかった。 「爆ぜよ、『風王鉄槌(ストライク・エア)』ッ!!」 纏わせた風の鞘を解放するや否や、荒れ狂う暴風が解き放たれる。 それを一度きりの飛び道具として利用することこそ、宝具『風王結界』の応用系、『風王鉄槌』だ。 聖剣を隠す鞘に収束していた風の量は相当なもので、たかが風と馬鹿にできる域を過ぎている。 風の炸裂と同時に、スタープラチナも綺礼も、ほぼノーバウンドに近い猛烈な勢いで吹き飛ばされた。 「が……ッ!」 「……チッ」 スタンドの受けたダメージは、本体に例外なくフィードバックする。 スタープラチナの本体である承太郎も衝撃に晒されるのを免れず、痛む体に更に鞭を打たれた。 綺礼はその場に踏み止まって耐えようとしたが、彼ですら一秒耐久するのが限界だった。 若き日の言峰綺礼の超人ぶりを知る者であれば、この時点で風王鉄槌の凄まじさを正しく理解出来よう。 そして風の直撃は、被弾者に攻めも守りも放棄させる。 セイバーが軽やかに地面を蹴り、向かうのはやはり綺礼の下だ。 「させねえッ!!」 何としてでも足を止めさせようと奮闘する承太郎だが、セイバーは何と走りながらスタープラチナの拳に対処している。 露わになった黄金の刀身を必要最小限の動作だけ動かして、数多くのスタンド使いを叩きのめしてきたスタンドのラッシュを事も無げに捌いている。 承太郎をして、恐ろしい女だと痛感させられた。これでも力をかなり削がれた状態だなんて、悪い冗談にしか思えない。 一方のセイバーも、しかし易々と承太郎のスタープラチナへ対処しているというわけではなかった。 普段の彼女ならばいざ知らず、今のセイバーは左肩に大きな傷を負っている。 少し動かしただけで激痛が走り、動作を阻害してくるこれに配慮しつつスタープラチナの超高速に対応するのは、如何に伝説の騎士王でも並大抵のことではない。 彼女の持つ『直感』スキルをフルに活用して、それでどうにか食い繋ぎながら進撃出来ている。 「言峰ッ!!」 自分では止め切れないと判断した承太郎は、綺礼へと声を張り上げる。 綺礼はそれに頷きを一つだけ返すと、先の『活歩』を応用。 後方へと高速で移動し、セイバーとの距離を確保する。 だがそれも、セイバーにしてみれば取るに足らない小癪な逃げ策でしかない。 スタープラチナの拳を力づくで振り払い、拳の乱打が緩んだ瞬間に加速を開始。 綺礼への距離を一気に詰めつつ、彼に一閃を打ち込まんとする。 綺礼はそんなセイバーを見て、最初こそ苦い顔をしていたが――息を一度吐いてから、何と彼は地面を蹴った。 それは前方への加速を意味する。もはや誰の目から見ても明らかな自殺行為だが、しかし綺礼にはある勝算があった。 空を切り裂いて振るわれる黄金の剣。 それを受けた瞬間、綺礼をこれまで支えていたアゾット剣が遂に限界を迎えて砕け散る。 最初に短剣が軋んだ瞬間、僅かに身を後ろへ移動させていた綺礼の判断は正しかった。 彼がそうしていなければ、今頃はアゾット剣諸共斬り伏せられていた筈だ。 自身の生存を確定させた綺礼は急に足を組み替え、そのまま騎士王の脚部へと絡めるように潜り込ませた。 内側から絡み付くそれは『鎖歩』と呼ばれる足さばきだ。足払いと一言で表現するのは簡単だが、極致に達した拳士が繰り出すとなればその効果は絶大になる。 セイバーは転倒にこそ至らなかったものの、それでも確実に保っていたバランス感覚を乱された。 立て直す間も与えず繰り出される綺礼の正拳が、吸い込まれるようにしてセイバーの腹部を抉る。 「……承太郎!」 「ああ」 数メートルの不本意な移動を余儀なくされたセイバーに、追い討ちのように拳を放つのはスタープラチナだ。 一撃一撃では綺礼のそれに及ばないが、それでも無視できる威力ではなく、何より速さでは綺礼すら追随出来ない。 万全の状態のセイバーには動体視力と直感で凌がれるだろうが、ならばそれが機能しない場面を選ぶのみ。それが、空条承太郎の回答だった。 そして事実、その戦法は一定の成果を上げていた。 セイバーの鎧は所々が凹み、衝撃が内部にまで伝わったのか彼女は口元から一滴の血を零している。 風王鉄槌は既に切れ、再使用が可能となるまでにはまだまだ風を集める必要がある。つまり、この戦闘中にもう一度あの暴風を吹かせるのは難しい。 人間二人と英霊一騎。 そこに圧倒的な戦力差が存在することを鑑みれば、承太郎と綺礼の戦線は、極めて優れていると言わざるを得まい。 他ならぬセイバーも、彼らの優秀さを認めていた。 戦場を知る者だからこそ分かる、見事としか言いようのない連携。 綺礼の判断力と技巧は驚嘆に値するし、承太郎の観察眼は侮れないものがある。 負わされたダメージの量も決して少なくはない――おまけに黄槍の呪いだ。 分はやや悪い。だが、それでも、セイバーはまだ倒れない。倒れるには程遠いだけの体力・余力を残している。 体勢を立て直した彼女の翡翠の瞳が、承太郎と綺礼を交互に一瞥した。 それから彼女は静かに、大きく息を吸い込むと、……吐く動作と共に、再び攻撃へと移ってくる。 ――今度の一歩は、先程見せたそれよりも更に力強く、俊敏なものだった。 なまじセイバーの見目が麗しい為か、傍目から見ればどちらが善でどちらが悪か分かったものではない。 綺礼はアゾット剣を失ったことで、もう彼女の聖剣を止める道具を有してすらいない。 徒手空拳を主要な武器とする彼にとって剣として見た場合のアゾット剣の喪失は然程痛くなかったが、盾として見た場合、アゾット剣を失うのは痛すぎた。 何しろセイバーの剣を止める手段がないのだから、これから綺礼は彼女の攻撃をほぼ全て回避しなければならない。 受け止めて、そこから返し手を打つという安定した流れに頼ることが不可能になってしまった。 先の攻防は綺礼と承太郎が勝利を収めたように見えたが、そういう意味ではセイバーも只で押し負けた訳ではないと言えよう。後々の戦いに響く度合いであれば、彼女の方が大きなアドバンテージを稼いだとすらいえるかもしれない。 鎖歩による足場崩しも、二度は通じまい。どう対処するか――黙考の末に綺礼の出した結論は、仲間の援護を貰うことであった。 綺礼と承太郎の視線が重なる。 それで言わんとすることを理解した承太郎は、スタープラチナを二人の間に割って入らせた。 「オラオラオラオラオラ――グッ!?」 同じ手は二度食わんと、怜悧に告げられた気分だった。 セイバーはスタープラチナが放つ初撃の拳を直感で見切り、歩幅を右にずらして回避。 そのまますれ違いざまにスタープラチナの左腕に聖剣の切っ先を這わせながら、悠々と突破してのけたのだ。 承太郎の左腕に、一筋の裂傷が生まれる。走る鋭い激痛を噛み潰し、承太郎は自身のスタンドにセイバーの背中を追わせた。 迫る高速の拳を、しかし察知できないセイバーではない。 綺礼に接近するなり今度は迂回するように彼を避け、その背後へと回り込む。 スタープラチナが追い付いてくるまでの時間はあって数秒だが、それだけでも彼女にしてみれば十分だ。 振り返りざまに手元を狂わさんと綺礼が繰り出す小技を難なく刀身で対処し、超至近距離からの刺突で彼の脇腹を刺し貫く。急所を外したのは、セイバーが手温かった訳でも何でもなく、純粋に綺礼の手際だ。ダメージを受けるのは不可避と判断するや否や、どうすれば最低限に止められるかを考え、行動した結果である。 結果として綺礼は命までは奪われなかったが、セイバーがごく近くに居ることには未だ変わりない。 彼女は仕留め損ねたと判断するなり刃を引き、今度は綺礼の首を刎ねるべく喉元へと乾坤一擲の勢いで突き出した。 対処不能。即座に、綺礼はそう判断する。 瞬間、彼の右腕に刻まれた――譲り受けた令呪が真っ赤に感光した。 反射神経強化、脚力増加、瞬発力の向上――刹那の一瞬で綺礼の力が人間以上の域へとブーストされる。 セイバーの突きを、強化された動体視力は確かに捉えていた。後はそれから逃れるように動くまでだ。 「……二画目ですね」 最初は驚いたが、二度目ともなれば驚きはしない。 むしろセイバーは、綺礼に残された打開策の残数を把握し、戦況を詰めの方へ運ばんとすらしていた。 言峰綺礼はそもそも正当な魔術師ではなく、故に魔術回路の開発を十分とは言い難い。 そこで普段は付け焼き刃の魔術を行使する為に、父の言峰璃正から賜った予備令呪を転用することで魔力源としている。 だが、今の綺礼に予備令呪なんてものはない。 令呪が支給品となっている時点で推して知れる話だが、繭によって没収されていた。 もしも万全な備えがあったなら、戦況はもっと好調なものになっていたことだろう。 これまで、既に二画の令呪を切らされた。 残りの令呪は一画。そしてブーストをした身体能力でも、セイバーの方がまだ上を行っている。 そして最後の令呪も、この調子ではそう長く温存は出来ない筈だと綺礼は踏んでいた。 どのくらいで切らされるかは分からないが、少なくとも全部残してセイバーを打破できる可能性は絶無だ。 全力を費やし、使える全てを使い、それでも倒せるかどうか。 サーヴァントと人間が戦うということの意味を、綺礼は腹の疼くような痛みに講義されている気分だった。 「オラァ!」 「ちッ――」 助け舟のように、スタープラチナの拳がセイバーの追撃を阻害する。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」 鍔迫り合いと呼んでいいのかは微妙な所だが、セイバーの状況次第では、やはりスタープラチナの手数は有用だ。 銃弾ですら見てから掴み取ることの出来る反射神経、対応速度を持つ拳。 仮にセイバーが直感という厄介なスキルを持っていなかったなら、これで押し切ることさえ出来たかもしれない。 拳を止めながらセイバーは苦い顔をする。しかしそれは、承太郎も同じだ。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」 これだけの勢いでスタープラチナを打ち込んでいるというのに、刀身が軋む気配すらない。 一体何で出来てやがるんだと、毒の一つも吐きたくなる思いだった。 それもその筈、サーヴァントの宝具とは尊き幻想(ノウブル・ファンタズム)……固有化した神秘の具現。 最強クラスの近距離火力を持つスタープラチナとはいえ、そう易々と破壊できるものでは断じてないのだ。 まして、今承太郎が相手にしているのは騎士王の聖剣――世界で最も有名と言っても過言ではない刀剣、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』と来ている。 スタープラチナがどれだけ激しく拳を打ち込もうが、この聖剣を破壊することはまず不可能に違いない。 承太郎も早い内にそれを悟ったのか、武器を破壊しようとはもはや考えず、防御の隙間を縫ってセイバー本人を狙う方針へとシフトしていた。 セイバーはそれに対応できてはいるが、流石に全てを余すところなく迎撃できている訳ではなかった。 その端正な顔にはかすり傷が幾つか走っているし、鎧にも擦れ、摩耗したような傷痕がかなりの数生まれている。 それでも、承太郎とスタープラチナを相手にこれだけの損害に止めているのは十分異常と言うべきだろう。 されど、そこに令呪で強化を掛け直した綺礼が参入するとなれば流石のセイバーも危機感を覚える。 意趣返しのように彼が背後へ回り込むのを確認するや否や、セイバーはあろうことかその場で跳躍を試みた。 予期せぬ行動に、承太郎も綺礼も完全に虚を突かれる。 攻撃の手が緩んだのを見計らい、セイバーはスタープラチナの腕を踏み台に更に跳躍。挟撃の状況を打破する。 「……デタラメだな」 「それがサーヴァントだ。あれでも見たところ、今のセイバーは力を半分は削がれている」 宝具の真名解放に左肩の傷、風王結界の解放を終えたことによる間合いの可視化。当然、風王鉄槌は使用不能。 神秘を宿さない攻撃をシャットアウトする機能も失っているのだから、五割の力を削がれているという綺礼の弁はそれなりに的を射ている。 恐るべきは、そんな状態でもこの強さということ。 彼女がもしも肩を潰されていない、健康体で現れていたらと考えると承太郎でさえゾッとするものがあった。 「構えな、言峰。奴さんの狙いはてめーみてえだからよ」 「分かっている」 セイバーの狙いは終始一貫して言峰だ。あくまで戦力の要を先に落とす。その方針は此処に至るまで一切ブレていない。 そこもまた厄介な点の一つだった。もしもセイバーが承太郎の方に目移りしてくれるなら、その分決め手となる綺礼の攻撃がヒットさせやすくなる。 延々綺礼だけを集中的に狙われては、戦線が崩壊に近付いていくだけだ。事実彼女に狙われ続けた結果、彼の奥の手は既にあと一回しか使えない有様である。 令呪によるブーストは、先の一瞬を見れば解るように、完全に"詰んだ"状況でさえ覆すことが出来る反則技だ。 謂わば身の丈に合わない戦いをする上での保険のようなもの。 だが、これを回避手段として使っているようでは、セイバーを討つことは難しいと言峰は考えていた。 戦闘手段として使う上での令呪は、言ってしまえばジェットエンジンのようなものだ。ジェット加速した乗り物を壁にぶつければ多大な破壊力を生むように、令呪で身体能力を強化した攻撃を打ち込むことさえ出来たなら、あのセイバーにとて戦闘不能級のダメージを与えることは可能だろう。 そして決め手とするに相応しい技にも、綺礼は覚えがある。少なくとも対人戦であれば、確実に相手を昇天させることが出来るレベルの大技だ。 後は、それを如何にして決めるか。如何にして、決められるだけの隙を作り出すかだ。 「――来るぞ!」 承太郎が叫ぶ。 既に構えは終えている。綺礼は努めて冷静に、迫る騎士王を睥睨する。 振るわれる一閃を、どこぞのSF映画のような超人的な動きで身を反らせて回避。 セイバーが振り抜いたのを確信して、体勢を強引に引き戻し、蹴り上げを彼女の胸元に打ち込んで後退させる。 虚無的な求道者である綺礼の肉体スペックをもってすれば、型のほぼ取れていない攻撃でも、十分に脅威的な威力を叩き出すことが可能だ。 現に受けたセイバーは顔を顰めながら、足だけでは衝撃を殺し切れずにたたらを踏んだ。 「ふ……ッ!」 「く……!」 すかさず一歩を詰め、拳での攻撃へ移る綺礼。 砲弾めいた拳をセイバーは刀身で防ぎ、彼の拳からは血が滴るが、それしきの痛みで止まるほど軟な男ではない。 防御した隙を見逃さず、一度は見切られた筈の足払いを放つ。 セイバーほどの剣士であろうと、タイミングさえ熟慮すれば、一度見せた不意討ちは十分に機能してくれる。 仮に直感のスキルで察知されようが、反応することそのものが命取りになる状況を作ってやればいいのだ。 例えば今などは、足元の攻撃に対処して飛び退こうものなら、確実にその一瞬を狙った承太郎の乱打を受ける事になる。 結果としてセイバーは、足元を黙って崩されるという最善手を甘受するしかない。 言うまでもなく、それはセイバーを有利にはしない。 崩れた体勢諸共地面にセイバーを縫い止めんと、綺礼の脚が落ちてくる。 まるで断頭台のようだと、彼女がそんな感想を抱いたのも無理のないことだろう。 しかしセイバーも負けてはいない。頭だけを横へ倒すことで損害を髪の数本に留め、一気に姿勢を元へ戻していく。 「……だが、まだだ」 彼女が攻撃に移る前に、綺礼の鉄拳がその胴を直撃する。 この戦いが始まってから、最も良い入りであった。 もしも使い手が綺礼でなかったなら、思わず自賛してしまいかねないほどのクリーンヒットだ。 「オラオラオラオラ!!」 その好機を、空条承太郎は見逃さない。 出現したスタンドが、真横からセイバーにラッシュを叩き付ける。 セイバーの顔に赤いアザが生まれ、その口元から一筋の血が滴り落ちた。 「承太郎、退かせろッ!」 「……分かってるぜ」 スタープラチナが撤退を選んだ瞬間、スタンドの首筋があった場所を、騎士王の凶刃が通り過ぎていた。 セイバーは苦渋の表情を浮かべながら舌打ちをし、口の中に溜まった血混じりの唾を吐き出す。 今の連携が彼女に無視できない量のダメージを与えたのは、その様子を見るだけでも明白であった。 されど、もはやセイバーは後退を選ばない。 彼女が後ろに下がることは、基本性能の差で遅れを取る綺礼と承太郎にも例外なく立て直しの暇を与えるということだ。 戦況を転ばせたいセイバーよりも、転ばされる側である筈の綺礼達の方がその行動から被る恩恵が大きい。そう判断しての、戦闘スタイルの変更だった。 そしてこれは、綺礼達にとって非常に都合が悪い。 毎度少し戦っては仕切り直しを繰り返すのであれば、その都度戦況を事実上リセットして戦いに臨むことが出来る。 だが一切の撤退なく延々と攻めの間合いに居座られては、立て直しに掛かるのは困難だ。サーヴァントであるセイバーが戦場から離脱するのと、腐っても人間である綺礼達が戦場から離脱するのとでは難易度が違いすぎる。まず、殺す気の騎士王から逃げ切るのは不可能である。 セイバーが再度踏み込んでから、間もなく危惧は現実のものとなった。 セイバーが攻める。 綺礼はそれを可能な限り躱すか掠り傷に留めつつ、合間を縫って攻撃を仕掛けていく。 それでも騎士王は退かない。どっしりと構えて綺礼の反撃にも対処しつつ、少しずつ流れを自分のものにしていく。 一度は先の一撃にも匹敵する当たりを生んだが、騎士王は顔を歪めただけで、やはり不動のままだった。 見かねた承太郎がスタープラチナで援護を試みるも、それにすら並行して対応して来るのだから性質が悪い。 化け物め、と承太郎は思わず奥歯を噛み締める。これまで目にしたどんなスタンドよりも、目の前のサーヴァントという敵対者は恐るべき強敵だ。 普通の人間ならば、とっくに心が折れている。承太郎と綺礼だから、挫けずに勝機を探り続けることが出来ているのだ。 それでも戦況は依然、絶望的――細やかな当たりを入れることは出来ても、決定打が生み出せない。その時点で、セイバーの打倒は非常に遠い話だった。 「……づ」 綺礼が、苦悶の呻きを漏らす。 見れば先程セイバーに貫かれた脇腹から、どくどくと血が溢れ出していた。 当初は大した傷ではないと思っていたし、事実そうであったのだろうが、激しい戦闘を続けている中で傷が広げられ、無視できない負傷に変わってしまったのだ。 無論、そんな事情を斟酌するセイバーではない。 手負いの人間相手だからと刃を鈍らせる甘さが彼女に残っていたなら、この期に及んで尚も殺戮者の立場に立っていること自体そもそもあり得まい。 一瞬傷口に意識を向けた綺礼に、その無沙汰を指摘するようにセイバーの剣戟が飛んだ。対応自体は出来たものの、彼の胴に袈裟懸けの裂傷が生まれる。 傷自体は浅い。それでも、ダメージは決して皆無じゃない。日常を生きている一般人にしてみれば、十分大きな傷と呼べる痛手だ。言峰綺礼が如何に超人であれど、元を辿れば心臓一つの人間一人。一つ一つの傷は、確実に彼という一個の生命に罅を入れ、それを広げていっている。 スタープラチナの鋭拳が、セイバーの頭部を横殴りにする。 ぐらりという意識の蹌踉めきは彼女を苛み、その頭から出血すらさせたが、翡翠の眼光に緩みはない。 スタープラチナの追撃を一発残さず阻み、巧みな足さばきで位置を調整しスタンドのラッシュに対処。 優先して落とすと決めた言峰綺礼をあと一歩追い詰め、詰ませることだけに意識を集中させる。 こうなっては、如何に承太郎といえども苦しいものがあった。メインの戦力として活躍している綺礼に戦いの趨勢を委ねねばならないことに彼は苦渋の念を抱く。 ――サーヴァントと人間が戦うとは、つまりこういうことだ。 前提からして性能が違う。それを数と連携で埋めた所で、無双の英霊達はそれを力尽くで覆すことが出来る。 半分ほどの力と利を削がれていても、だ。世界に召し上げられた英霊は、決して生易しい存在ではない。 まして彼女は最優の英霊。かの円卓の騎士を統率した、聖剣の騎士王なのだから。 こういう戦況になることは、至極当然のことであると言えよう。ヒトと英霊の力関係はいつだって変わらない。 そしてそれを証明するように、決定的な瞬間はやって来る。 言峰綺礼。 空条承太郎。 双方が同時に、不味い、と察知した。 セイバー、アルトリア・ペンドラゴン。 彼女は対照的に、獲った、と冷淡に認識した。 手負いの身でセイバーの斬撃を捌いていく綺礼の動きが、一瞬狂う。 一度は貫かれた脇の傷が、出血とは別に、強烈な激痛を訴えかけてきたのだ。 戦いの世界において、痛みというのは決して無視できるものではない。 どんな武道の達人であれ、僅かな痛みで技の精度が狂い、敗北に追い込まれるという例はごまんとある。 ましてそれが、決して過つことの出来ない緊張した場面であれば尚更だ。 不意の痛みは容易に体勢を狂わせ、致命的な隙を生み、拳士を絶望の底へと引きずり落とす。 回避動作の完了がほんの僅か遅れた。 たったそれだけのアクシデントでも、相手が武芸に秀でた英霊ともなれば立派な敗因に変わる。 綺礼はそう理解していたし、この瞬間、それを身を以て思い知らされることになった。 「――終わりです」 超至近距離から振るわれる、鞘の戒めを解いた黄金の聖剣。 勝利の光を放たずとも、その斬れ味が超絶のものであることは語るに及ばない。 担い手は世界最高峰の騎士。綺礼は確信する、これは詰みだ。将棋で言えば、王の全方位を金が囲んでいるようなもの。 「言峰!!」 承太郎の声が、どこか遠く聞こえる。 言峰綺礼の全神経が今、この状況を打破することに全霊を注いでいた。 しかし、対処の手段など考えるまでもない。一つを除いて、綺礼が生存できる目は存在しない。 即ち、最後の令呪による瞬間加速だ。それを使えば、理論上はセイバーの一閃を躱し、反撃することが出来るだろう。 だが――……綺礼は、今死線に立たされている者のそれとは思えないほど静かな瞳で、一瞬考える。 実際の時間に換算すれば一秒にも満たない、生存手段の模索。その末に、彼は言葉もなく結論を下した。 紅林遊月から受け取った令呪、その最後の一画が感光する。 奇しくも宿敵、衛宮切嗣が得意としていた魔術のように、使用と同時に世界が変わる錯覚をすら綺礼は覚えた。 これも、もう慣れた感覚だ。三度目ともなれば、新鮮さも失せる。 強化された肉体を、脳の血管が切れるのではないかと思うほどの集中状態で駆動させ、強引に騎士王の攻撃を避ける。 しかし反撃に打って出るよりも早く、騎士王の口元が動いた。 笑みは浮かべない。会心の笑みなど、この誉れなき戦いには似合わないからだ。 ただ、円卓の主は静かに呟く。 綺礼の予想通りの言葉を。令呪を切る前の一瞬の時間で、綺礼が思い浮かべた最悪の事態を、容易く引き起こしてくる。 「甘い」 令呪による瞬間強化は、人間の綺礼にしてみれば切り札に等しい反則手だ。 されどそれは、あくまで人間の視点で考えた場合の話。 三騎士クラスの優れたサーヴァントにしてみれば、驚きこそすれど、決して対処不能な反則技ではない。 綺礼が令呪による強化に慣れたように、それを二度と見てきたセイバーも、何ら驚きはしなかった。 それどころか、読んですらいた。こう追い詰めれば必ず令呪を使ってくると、そう踏んだ上で彼女は斬り込んだのだ。 そこで、相手は予想通りの行動をしてきた。そうなれば、セイバーに取っては最早好都合。 令呪による回避という反則を前提にした返し手で、綺礼がやっとの思いで確保した間合いを一瞬で詰める。 持てる敏捷性の優位を最大限に活かしたそれにも、綺礼は果敢に対抗せんとした。 だが、悲しきかな。それすらもセイバーにしてみれば、止まって見える程に緩慢な動作である。 一閃。 勝負を決めるには、ただそれだけで十分だった。 黄金の残像が虚空に走り、空気は切り裂かれたように鋭い音を鳴らす。 ごとりと、何か重いものが地面に落ちる音がした。 それは、僧衣を纏っていた。赤色に染まっていた。 ――紛れもなく、言峰綺礼の左腕だった。 「――オォォォラァアァァァァァ!!!!」 激昂した承太郎の声。 セイバーはそちらの方へと意識を向ける。 言峰綺礼は、ただ静かな目で、何かを悟ったように目の前の光景を見ていた。 ……その拳が静かに、握り締められたことに――セイバーは気付かない。 言峰綺礼は、空(Zero)に限りなく近い男である。 万人が「美しい」と感じるものを美しいと思えない、破綻者である。 未来の彼は黄金の英霊との出会いを機に振り切れ、悟りと余裕を得るものの、この頃の彼にそれはない。 他者の苦痛に愉悦を覚える性を受け入れられぬまま、深く自身の在り方に懊悩する求道者。 とはいえ、虚無的な側面があることは否めまい。 不完全な自身を痛め付ける為に信仰し、技を極めた青年神父。 そんな彼だからか、自分がどうやら詰んでいるらしいことを理解するのは速かった。 令呪を切る寸前だ。 綺礼はあの段階で、騎士王が自分の行動を読んでいることを察していた。 彼女ほどの騎士が、その程度のことも分からない筈がない。 何度も何度も不意を討たれて好機を逃す、そんな有様では、最優の英霊などとは到底呼ばれないだろう。 そうある種彼女の力量を信用した上で、彼の頭の算盤は至極冷静に、自分に先がないという事実を弾き出した。 そして、その通りになった。 セイバーの斬撃は、構えた左腕ごと、綺礼の胴を深く一閃していた。 腕を切り落とされたこともそうだし、胴の傷も完全に致死のそれである。 よしんばこの戦場を生き永らえたとしても、参加者に与えられている医療手段では延命は不可能。 そう判断した彼の思考は――焦りも嘆きも恐れもせず、一層静かに冴え渡った。 令呪の力はまだ生きている。 体も動かすことは出来る、伊達に鍛えてはいない。 腕は損失した――然し損失は軽微。痛手ではあるが、牙を完全に抜かれた訳ではない。 (ならば……) 急な失血で靄がかかったように眩む視界を、半ば自身の集中力だけで活性化させ、明瞭なものへと変える。 承太郎の方へと意識を向けているセイバー。此方の方へ意識を引き戻したとして、確実に無駄な時間はそこに生じる。 戦いの中で何度も猛威を奮った超直感。厄介だが、此処は承太郎次第だ。 承太郎のスタープラチナの援護次第で、直感による対処は十分潰すことが出来る。 そして、相手は騎士。拳士ではない。よって、己の考えている一手を完全には把握していないと分析。 以上のことから、言峰綺礼は『決行可能』と判断する。 未だ傷を負っていない剛脚に力を込めるや否や、彼はバネに弾かれるように、間近のセイバーへと突撃した。 「なッ――!?」 セイバーが驚愕するのも無理はない。 先程彼女の決めた斬撃は、心臓こそ外していたものの、綺礼の体を厚さの八割ほどは引き裂いていた。 即死でも不思議ではないし、そうでなくとも出血が招くショックで動作が停滞するのが普通というもの。 そう、これは油断だった。彼女らしからぬ、油断。相手は人間であるから、これで足りるという慢心。 確かに、言峰綺礼は人間だ。しかし、求道の彼は常人ではない。 セイバーは、それを見誤った。超人と認識はしていても、最後の最後でその限界を見誤った。 「オラァァ!」 剣を握りかけたセイバーの腕を、スタープラチナが見逃さずに鋭く殴打する。 鎧もある以上、さしたる痛手ではない。だがそれでも、僅かな痛手にはなった。 鉄火場においてほんの僅かな要素が致命となることは、セイバーもよく知っている。 彼女は先程、それを利用したのだから。――知らないはずがない。 地面を慣れ親しんだ道場の床と見立て、地鳴りが起こるほどの剛力で蹴る。 一瞬にして長距離を駆け抜ける箭疾歩は、この間合いではほぼタックルのようなものだ。 セイバーを押し倒す勢いでその矮躯に衝突すれば、綺礼は渾身の震脚で大地を揺るがした。 野外である以上幾許か効果は減少するが、重ねて言うが今の間合いは超至近。 効果がない筈がない。並の武道家ならばまだしも、達人である綺礼の渾身ともなれば。 ――思考はクリアだ。 この時ばかりは、傷が深いことが幸いした。 ――痛みは麻痺し、言峰綺礼を阻む物は何もない。 左腕はない。この時点で、十全のパフォーマンスを決めることは不可能。 ――無問題。片手落ちであろうと、超絶の威力は叩き出せる。平常体ならばまだしも、令呪で底上げされた地力ならば。 空条承太郎も、この一瞬に全てを懸ける。 彼は敏い少年だ。辛い現実から目を背けることをしない、強い少年でもある。 その彼だから、言峰綺礼がもう助からないということは理解していた。 理解しているからこそ、綺礼が最後に見せんとしている底力に胸が熱くなるのを堪えられない。 承太郎がクールで冷徹な人間だと勘違いしている者が居るのなら、それは間違いだ。 彼は、激情家である。理不尽や非道に怒りを燃やし、仲間の意志を我が事のように重く受け止める熱き戦士。 綺礼が命を捨ててまで作り出した好機を、決して逃しはしない。無駄にはさせない。 その意志で放つスタープラチナの拳は単なる妨害手段であるというのに、これまでよりも明らかに鋭く、疾く、重い。 スタンドパワーが彼の意志に応じて向上しているかの如く、唸る拳は猛り吼える。 セイバーもまた、必死だった。 その心に強い願いを抱くからこそ、彼女も諦めない。 繭の下に魂を幽閉されれば、もう二度と、聖杯の輝きを手にすることは出来ないだろう。 ――それだけは。それだけは、絶対にあってはならない。そう思えばこそ、剣を握る力は強くなる。 それでも。彼女は、二人の人間が繰り出す猛攻から脱せずにいた。 綺礼の拳が空を裂く。 迸るは渾身の一打。 言峰綺礼という男が、セイバーを討てるとすればこの技だろうと最初から視野に入れていた奥義。 即ち、八大招・立地通天炮。 セイバーの鎧による防御を無視し、顎下から剥き出しの頭を破壊する必殺の拳。 それはまさしく、綺礼の命を燃やすかのように彼自身の飛沫をあげながら猛進し――…… 「……が、――――ッ!!」 誉れも高き騎士王の顎下を打ち抜き、その矮躯を天高く舞わせた。 ◆ 脳裏に過るものがある。 それは、在りし日の記憶。 かのブリテンで、円卓の騎士が隆盛を極めていた頃の景色。 ――アルトリア・ペンドラゴンは選定の剣を抜き、この時代を作り上げた。 騎士道が花と散った時代に、ブリテンに平穏と繁栄を齎したのだ。……そう、最後の繁栄を。 「ま――だ、だ…………」 それを思えばこそ、アルトリアは止まれない。 立ち上がるということがあり得ない負傷を負っておきながら、彼女はなおも二本の脚で大地に立つ。 言峰綺礼が隻腕で放った攻撃は依然として必殺のそれであったが、しかし威力が幾らか減退していたのも確か。 それが、騎士王を滅ぼしきれない理由となった。重傷を負ってはいても、未だその生命も闘志も健在。 打たれた顎は砕け、口元は止めどなく血を流している。両の眼からは血涙が溢れ、髪は土埃に塗れてすらいた。 脳はほぼシェイクされたも同然。意識は常に朦朧とし、気を抜けば命ごと意識を取り零しそうだ。 にも関わらず。アルトリアは剣を取り落とすことなく、立つ。――まるでいつかのように、ただ一人、孤独の王として。 王には、人の心が分からない―― かつて城を去った騎士、トリスタンの声が脳裏に蘇る。 神秘を失くして滅びに向かうブリテンの地。聖杯探索を経ても、伝説の終焉は止められなかった。 カムランの丘で討ち倒したモードレッドの姿を、今も鮮明に覚えている。 膝を折り、傷から血が流れ出ていく感覚すらも、鮮明に。 ――止まれはしない。これしきの傷で、足を止めることがどうして出来ようか。 見れば、自分に致命を打ち込んだ神父は既に倒れ臥していた。 その真下には、真っ赤な血溜まりが止めどなく流れ出している。 文字通り、あの一撃で余力を使い果たしたのだろう。 堕ちて尚、アルトリアは彼の生き様を見事と思う。 後、何人斬ればいい。そう思うことは、敢えてしないようにしていた。 只、最後まで。止まらないと覚悟した時から、それだけを見据えて駆け抜けてきた。 故に彼女は立つ。 血に濡れた聖剣を手に、罪を重ねる。 端から見れば泥酔しているかのように覚束ない足取りで、それでも勝利を求めるのだ。 「待ちな」 そんな彼女を、呼び止める声がある。 視線の先に立つのは、左の肩から血を流す学生服の少年だった。 ――空条承太郎。スタープラチナのスタンド使いは、仲間を失って尚絶望することなく、騎士王を見据えていた。 その顔に、敵が立ち上がったことへの動揺はない。 綺礼の一撃では不足と、軽んじていたわけではない。 綺礼も承太郎も、あの瞬間に命を懸けていた。 その彼がどうして、仲間が仕損じるのではと疑って掛かる道理があろうか。 「てめーを先には進ませねえ」 「……ならば」 承太郎は立ち上がったアルトリアを見て、ただ冷静にこう思った。 進ませはしない。言峰綺礼が死んだからといって、やることは当初から何も変わっていない。 殺し合いに乗ったこのサーヴァントを、此処で倒す。ぶっ飛ばす。 ただそれだけの理由で、空条承太郎は立っている。 アルトリアもまた、それを瞬時に理解したからこそ無駄な問答は交わさない。 聖剣を握り、勢いよく踏み出した。この困憊具合で尚も俊敏さを発揮する姿の、何と異様なことだろうか。 迅雷が如く振り抜く聖剣を、迎え撃つのは星の白金(スタープラチナ)の鉄拳だ。 綺礼のものよりも速く鋭い拳。だが、威力では彼の拳士に幾らか劣る。 アルトリアもそのことについては織り込み済みだったが、今の彼女にとっては、むしろ威力重視の方が御し易かった。 脳に叩き込まれたダメージ。それは今も、絶えることなく彼女を苛み続けている。 スタープラチナの速度に合わせることは、満身創痍のアルトリアにとって決して小さくない負担であった。 そう。既に、勝負は見えている。 アルトリア・ペンドラゴンは、あの一撃を受けた時点で敗北していた。 神秘以外への防御を失い、聖剣の光を放つことも不能になった騎士王にとって、あれは完全に決まり手だった。 最優と謳われる戦闘能力、反射速度、敏捷性さえ削がれた彼女が打ち倒すには、空条承太郎は難敵過ぎる。 「てめーが何処の誰で」 スタープラチナの拳が、セイバーの腹を打ち抜いた。 それが、終わりの始まりだった。 「何がしたくて」 二撃、三撃と。 鎧を抉る拳は猛く、重く響く。 「このくそったれなゲームに乗ったのかは知らねえ」 承太郎はアーサー王伝説や円卓の騎士という名前に聞き覚えはあっても、その詳細を知っている訳ではなかった。 だから彼女の願いなどに心当たりは全くないし、そこにどれほどの思いがあったのかも知らない、分からない。 その彼が、彼女が殺すことを選んだのに対してとやかく言う筋合いはないだろう。承太郎自身、そう思っている。 「だから――俺は俺の理由で、てめーを……『裁く』ッ!!」 そこに、彼女を糾弾する意味合いはない。 あるのはただ、空条承太郎個人の怒りだけだ。 仲間を殺した女への怒りだけを武器に、スタープラチナは拳を振るう。 怒髪天を衝いた承太郎は大きく息を吸い込めば、そのまま声を張り上げる。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」 打ち込む拳が、騎士の鎧をひしゃげさせていく。 凹みを生み出し、有無を言わさず、連打する打撃。 止まらない。止まりはしない。仲間を失った承太郎は、今"怒っている"のだから。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」 アルトリア――いや。 セイバーの体に限界が訪れるのは、程なくしてのことだった。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」 元より、無理矢理に延命しているだけだった体。 殺し合いの参加者となるに辺り、数段の劣化を掛けられた性能。 打ち込まれた言峰綺礼の乾坤一擲で死に体に限りなく近付いた彼女に、スタープラチナの連撃は余りに強烈過ぎる。 そう、勝負は着いた。――最優のサーヴァントを二人の人間が討つという番狂わせで、この死合は幕を閉じるのだ。 「――――オラァァァァァアアアアアアアアアッ!!!!」 魔力で編まれた鎧を、力尽くの連打で部分的に破砕させ。 針の穴に金属バットを通すような無理矢理さで、スタープラチナの全力を叩き込んだ。 それはセイバーの胸を破り、霊核を粉砕し、その体を貫通する。 ……戦場は、哀しいほどに静かだった。ただ、承太郎とセイバーの吐息の音だけが聞こえていた。 「……俺はただ、あいつの『やり残し』をぶちかましただけだぜ、サーヴァント」 スタープラチナの拳を引き抜き、承太郎は帽子を深く被り直す。 そしてただ一言だけ告げる。言葉は不要と分かっているから、彼は多くを語らない。語る気もない。 「てめーを倒したのは言峰だ。俺じゃ、とてもじゃあねえが勝てなかった……てめーは、あいつに負けたんだ」 それだけを告げて、承太郎は静かに踵を返した。もう、セイバーは立ち上がらない。 消え行く意識の中、セイバーは少年の声を反芻していた。 自分は敗北した。もう体に感覚らしいものは殆どなく、力を入れることすら出来ない。 英霊としての死とはまた違う、生命としての死が、今まさに自分を連れ去ろうとしているのが解る。 ――……結局、全ては叶わなかった。ただ罪を重ね、迷走し、その末に因果応報の結末を迎えただけ。 空は昏い。 雲間から、昏い空が覗いている。 それを見上げながら、風の冷たさすら感じられなくなった体で、セイバーは思うのだ。 そうだ。きっと、自分は最初の一歩から踏み間違えていた。 王の選定をやり直すという形で祖国に報いんとする余り、魂を幽閉されるという可能性の途絶を恐れた。 もしも。 もしも自分が、騎士の矜持を捨てることなく、繭へ毅然と立ち向かっていたなら――何かを変えられたのだろうか。 全ては、闇の中だ。もう二度と、騎士王アルトリアが何かを変えられることはない。 (……私は) ああ。 もう。 (私は……一体……――――) あの空に、手を延ばすことすら、出来ない。 【セイバー@Fate/Zero 死亡】 ◆ 「言峰」 「…………セイバーは、倒したのか」 「ああ。倒したぜ」 「ならば、私の持ち物を持っていけ。セイバーのものもだ。死人が持っていても、最早何の役にも立つまいよ」 言峰綺礼は、まだ生きていた。 とはいえ、もう彼を救うことは出来ない。 当初からして即死級の傷だったのだ。この時点でまだ生きていることが、そもそも異常事態である。 左腕の切断面は未だに止めどなく血を流しており、胴の傷は言わずもがなだ。 これが勝利の代償。大金星の対価に、言峰綺礼は此処で死ぬ。 その結末を変える選択は、もう誰にも打てない。 「……お前の手で掴んだ勝ちだぜ。ちったあ嬉しそうにしたらどうだ」 「さて、な……生憎と、そういう感情の機微は乏しい身だ」 承太郎は、そんな彼の傍らに立っていた。 あくせくと、何か打てる手はないかと焦ったりはしない。 どうしようもないことを悟っているからこそ、静かに綺礼を看取らんとしている。 「私はあの男に……DIOに、言われたよ。自分に正直に生きることだ、と」 DIOに綺礼が揺さぶりをかけられたことは、承太郎も知っている。 彼が万一暴走する可能性も常に視野に入れつつ、承太郎は行動していた。 結果として綺礼は最後まで彼の言葉に惑うことなく、自分を殺したまま生涯を終えることになったが。 「私はそんなことはあり得ないと断じたが……今際の今はこう思う。奴は間違いなく、この私の本質を見抜いていたのだ」 もしも、仮にこの殺し合いがなかったなら――或いは。 このまま言峰綺礼が生存し続けていたなら、彼の本性はいつか萠芽の時を迎えていただろう。 他人の不幸は蜜の味を地で行く悪人。非道ではなく外道を進む破綻者として、大成していたに違いない。 どれだけストッパーを用意していたとしても、人間の内なる本性を完全に抑圧し、消し去ることなど不可能だ。 その本性が表に出るのを防いだのが、彼を死に至らしめた騎士王だというのは、なんとも皮肉な話だったが。 「そうかもしれねえな」 承太郎はただ、冷静に言う。 「だが、言峰。俺は、てめーが居なけりゃ此処で死んでいた」 「……そうか」 「てめーがどんなシュミの持ち主かは知らねえし、今後分かることもねえ。 ……風見や天々座、紅林も同じだ。てめーは、間違いなく最後まで俺達の仲間で、味方だった」 「………」 「それでいいじゃあねえか。それでよ……」 きっと、言峰綺礼の真実が明かされることはもうない。 あったとしても、当の綺礼はもう死んでいるのだ。 誰にもその真偽を確かめる術はない――愉悦を愛する破滅の神父は、誕生しない。 承太郎やその仲間達の記憶に残る『言峰綺礼』は、最後まで勇敢に戦って死んだ、一人の仲間で終わる。 「……は、ははははは」 それは、何と滑稽なことだろうか。 何と滑稽な、終わりだろうか。 綺礼はこの殺し合いに招かれてから、初めて笑った。いや、嗤った。自分の最期を、嗤わずにはいられなかった。 そして彼は瞼を落とす。風だけが吹く戦場だった場所に、求道者の意識が落ちていく。 「ああ……それも、悪くは、ないのかもしれん――」 【言峰綺礼@Fate/Zero 死亡】 【Fate/Zero――Down to Zero we Go】 ◆ 「言峰は、死んだ」 遊月と未だ気絶したままのリゼの前に戻ってきた承太郎は、静かにそう言った。 がくりと、思わず遊月は膝からその場に崩れ落ちてしまう。 彼を戦場に行かせたのは、紛れもない遊月自身だ。 令呪を託し、その背中を見送った。 ――その結果がこれだ。言峰綺礼は帰ってこない。死んでしまった。また、仲間が死んでしまった。 「……紅林。悪いが、ちと傷を負いすぎた。止血を手伝ってくれ、自分だとどうにもやりにくくて敵わねえ」 以前までの遊月なら、それを冷徹と糾弾していたかもしれない。 仲間が死んだというのに、どうしてこの人はこんなに冷静でいられるんだと。 止血の為に学ランの布を使おうとしているその巨体に、罵倒の声を掛けていてもおかしくない。 そうしなかったのは、ひとえに彼女なりに学習した結果だ。 この会場に来てから、遊月は何度も感情を暴走させた。 殺し合いはしないと決めたのに、仲間に迷惑をかけてしまった。 そして、目の前で仲間を殺されて。自分が送り出した仲間も殺されて―― 授業料としてはあまりに高すぎる心の痛みを代償に、遊月は少しだけ前に進むことが出来たのだ。 ……尤も、理由はそれだけではない。承太郎の目を見たなら、彼を冷徹だなんて誰も言うことは出来ないだろう。 殺し合いへの怒りと、強い意志が宿った双眼。 彼は怒っている。遊月よりもずっと強く、怒っている。 彼らの戦いを、遊月は見なかった。 ただ、祈っていただけだ。 どうか、もう誰も死なないようにと。 もしも彼らの戦いを見ていて、承太郎と綺礼のどちらかが死ぬことになったなら、自分はきっと耐えられない。そう思ったから。 眠っている理世の体を強く抱き締めながら、ただ祈っていた。 結果としてその祈りは裏切られたが――綺礼の死は、無駄ではなかったらしい。 承太郎が生きて戻ってきたということは、つまりそういうことなのだろうと、遊月は無言の内に解釈する。 長く、辛い戦いだ。本当に。 承太郎の止血を手伝いながら、遊月は唇を噛み締める。 いつになったら、終わりが来るのだろう。 答えてくれる者は、どこにもいない。 【G-4城周辺/路上/夜】 【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(小)、胸に刀傷(中、処置済)、全身に小さな切り傷、左腕・左肩に裂傷(処置中)、出血(大)、強い決意 [服装]:普段通り [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(37/38)、青カード(36/37)、噛み煙草(現地調達品)、不明支給品0~1(言峰の分)、各種雑貨(ショッピングモールで調達)、不明支給品0~2(ポルナレフの分)、スパウザー@銀魂、不明支給品2枚(ことりの分、確認済み)、雄二のメモ、約束された勝利の剣@Fate/Zero、レッドアンビジョン(花代のカードデッキ)@selector infected WIXOSS、キュプリオトの剣@Fate/zero [思考・行動] 基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。 0:傷を処置した後、風見の下へ向かう 1:回収した支給品の配分は、諸々の戦闘が片付いてから考える [備考] ※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦。 ※折原臨也、一条蛍、香風智乃、衛宮切嗣、天々座理世、風見雄二、言峰綺礼と情報交換しました(蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません) ※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。 ※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。 ※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。 ※越谷小鞠を殺害した人物と、ゲームセンター付近を破壊した人物は別人であるという仮説を立てました。また、少なくともDIOは真犯人でないと確信しました。 ※第三放送を聞いていません。 【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】 [状態]:気絶、状況をまだ飲み込めていない可能性あり、疲労(大)、精神的疲労(大) [服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ [装備]: [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0枚 [思考・行動] 基本方針:ゲームからの脱出 0:気絶 [備考] ※参戦時期は10羽以前。 ※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。 ※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。 ※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。 ※第三放送を聞いていません。 【紅林遊月@selector infected WIXOSS】 [状態]:口元に縫い合わされた跡、疲労(中)、精神的疲労(大) [服装]:天々座理世の喫茶店の制服(現地調達) [装備]:超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル [道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(19/20) 黒カード:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS [思考・行動] 基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない 0:冷静になる。心を落ち着かせる。気持ちを整理する。 1:言峰さん…… [備考] ※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です ※香風智乃、風見雄二、言峰綺礼と情報交換をしました。 ※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります。 ※チノの『演技』に気付きましたが、誰にも話すつもりはありません。 ※チノへの好感情、依存心は徐々に強まりつつあります ※第三放送を聞いていません. ※アゾット剣@Fate/Zeroは破壊されました。 時系列順で読む Back ロクデナシの空に Next 何の為にこの手は 投下順で読む Back ロクデナシの空に Next 何の為にこの手は 168 戦風の中に立つ 天々座理世 190 serious and normal girls 168 戦風の中に立つ 紅林遊月 190 serious and normal girls 168 戦風の中に立つ 空条承太郎 190 serious and normal girls 168 戦風の中に立つ 言峰綺礼 GAME OVER 168 戦風の中に立つ セイバー GAME OVER
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■Battle of EuropeanM@STER ■Battle of EuropeanM@STER 名前 コメント
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Go And Battle!ってなんぞ がらくた収集所の管理人「OceanLight」さんがつくったゲームのひとつ。 ダウンロード ここ からDLできる。 操作方法(Readmeから転載) タイトル・ファイル選択画面では 上下キー:ファイルの選択 シフトorスペース:決定&GO! タイトル・人数選択画面では 上下キー:人数設定 左右キー:変更する場所をチェンジ(←マイキャラ数/→最大キャラ数) シフトorスペース:決定&GO! ターンメニューでは 上下キー:選択 →orシフトorスペース:決定 ダイス画面では ↑orシフトorスペース:サイコロを振る Zor↓:メニューに戻る ステータス画面では 上下キー:キャラ選択 左右キー:表示項目変更 Zorシフト:メニューに戻る マップ画面画面では 矢印キー:マップスクロール シフトorスペース:メニューに戻る セーブ設定・終了画面では 矢印キー:選択 シフトorスペース:決定 Z:メニューに戻る 分岐点では 矢印キー:方向の決定 武器選択画面では: 左右キー:手に入れる武器を選択(←現在の武器/→手に入れた武器) ↓orシフトorスペースキー:決定 戦闘では ←:←プレイヤーのキャラのサイコロを振る →:→プレイヤーのキャラのサイコロを振る アイテム 敵を倒すと入手できる。 ポーション HP20%回復 ハイポーション HP50%回復 エリクサー HP80%回復 エーテル 使用ターンにサイコロを2個振ることができる ハイエーテル 使用ターンにサイコロを3個振ることができる レーション HPが4/1以下になると自動的に使用。 HP10%回復 カロリーまて HPが4/1以下になると自動的に使用。 HP30%回復 即席ラーメン HPが4/1以下になると自動的に使用。 HP50%回復 チョコレート SP50%回復。2回使える。 幕の内弁当 SP100%回復。 チューインガム SP10%回復。2回使える。 始めから1回しか使えないものもある。 おにぎり SP50%回復 止まれ看板 開発中! マスについて その場所に着くと何かしらのイベントが発生。 スタート地点 ☆印がある。ニューゲーム時、または新エリア到達時に必ず来る場所。 また、敵にやられるなどで、HPがゼロになると、ここに戻される。 ここで休むとHP・SPともに全快する。 青色 ステータスが上がる。上がる値はランダム。 赤色 ステータスが下がる。下がる値はランダム。 白色 何も起こらない。 緑色 もう一度サイコロを振ることが出来る。 緑色ハテナ 何かのイベントが発生。 紫色 敵とバトル。負けるとスタート地点に戻される。 水色 武器、または防具ゲット。 灰色矢印 矢印2つ以上だと分岐地点。1つだけだと強制的にその方向へ。 黒色(ボス) 強制的にストップ。ここでボスと対戦。勝利すると武器がもらえる。 ボスが倒された後は、緑色マスと同様に、もう一度サイコロを振ることが出来る。 キャラクター 到着時に別のキャラが居た場合、そのキャラとバトル。 別のキャラを倒した後、そのマスの効果が発動する。
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144 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 11 11 42 ID 00N8M60C0 私は決めた。このレポート、いや、物語を転送する時代を。それを決めた。 過去に送るか未来に送るかは分からない、といつしかこれに書いたつもりなのだが、 とにかく、私は過去に送る事に決めた。 最初に「時は未来」と書いた事を思い出す。 思えば、あの時から過去に送ろうと決めていたのかもしれない。きっとそうだろう。 恐らく、私が決めた時代に送ることが出来れば、 この物語のネタが分かって面白いと感じる人が出てくるかもしれない。 万が一の場合、ミスを犯し、それ以前の時代にこれを転送してしまえば、 面白いと感じるどころか当たらない予言の書扱いされるのがオチだろう。 でも、それでも真実の一部に触れてくれる事に変わりは無い。それでいい。 これは馬鹿げていて、そして荒唐無稽な話だ。 これまで読んでくれた方はそう思っているだろう。 書いている私がそう思っているのだから、読んでくれている人たちだってきっとそう思うはずだ。 2999/12/25 18 24 この時刻からこの「Phase 3 -decisive battle-」は始まる。 まだ、決戦の火蓋は切られていない。だが、もう少しだ。もう少しで始まる。 145 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 11 14 58 ID 00N8M60C0 破滅へと導く意思と永続へと導く二つの意思 その二つの意思が激突する時 壊れた円環は修復されあるべき姿へと還る 始まりと終わりの繋がる、無限の円環へ 2999/12/25 18 24 一度解散したユール達は時間通りにターミナルタワー屋上に集合した。 それから再度メトロのプラットフォームにある秘密通路からWSF基地に入り、 先に来た時よりは軍服を着た人々が多く歩く寒い廊下を歩き、そして作戦会議室へと入室した。 トルセが前に入室した時と同じく部屋の明かりを点け、 そしてユールは見慣れないショートカットの女性が一番奥で座っていたのを見た。 女性は外見上20代半ばに見え、髪の色はユールと同じ黒だった。 髪の伸びは首のあたりで止まっている。髪型はストレートヘアー。頼れる女性といった雰囲気を醸し出している。 ユール達は前に入室した時と同じ席に座り、トルセが進行役を務めるブリーフィングに臨んだ。 「えーと、この人はアヤさん。アヤ・イシカワさんです」 トルセはブリーフィングの準備を進めながら五人に言った。 アヤと呼ばれた女性は立ち上がって自己紹介を始めた。 「今晩は、皆。今日は協力してくれて感謝する。 トルセから紹介されたが、私の名前はアヤ・イシカワ。アヤでいい」 「よろしく」とアヤが言い、ユールは頭を下げ「こちらこそよろしくお願いします」と返した。 それに倣って他の四人も頭を下げて同じセリフを言い、そして動きを見せたホログラフを見つめる。 「前のブリーフィングの時に言った敵の兵器… 獅子型高機動制地兵器、蠍型高機動制地兵器、 烏賊型超高機動制地兵器、人型可変機動型制空兵器。この四つはもうWOS本部を出た。 WSF総帥はWSFカーニバル基地の視察のために今日来るという事になっているわ。 …言おうかどうか迷っていたくらいの機密事項だったの。さっきは言えなくてごめんなさい。 それで、WSF総帥は自分の飛行機と彼を護衛するかのように取り囲んでいる大型の飛行機、 中身は機密事項の輸送機ね。それを引き連れてカーニバルにやって来る」 「到着時刻は?」 クーリーが聞いた。 「計算してみると、ほら、皆のホログラフに出たと思うけど、22 00位に来ると推定されている」 それを聞いたクーリーは「やっぱトプランのアレか…」と呟いた。 そんなクーリーの姿を見ながらトルセは話を続けた。 「トップランカー決定戦、アレを一般客の集合というか陽動に使うって言ったよね? このタワーがシールドで護られている事も言ったよね?」 五人は無言で頷き、そしてトルセに続きを言うように求めるかのように押し黙った。 「大体の人はトプラン決定戦を見に、会場であるターミナルタワー内部に押し寄せる。 集まらない一般客は、WSFの兵士がどうにかして保護するか、タワーに入れてあげる。 だから、戦闘による死亡者の出るリスクは、私達を除いては全く無いから安心して」 死ぬ可能性があるのは私達だけ…それを幸運だとトルセは捉えているのだろう。 そんなトルセにユールは密かに尊敬の念を抱いた。自分が死ぬかもしれないという事に恐れを抱いていたからだ。 146 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 11 24 26 ID 00N8M60C0 「それで」 トルセが言ってホログラフの動きに変化が見られた。 獅子型高機動制地兵器の姿が拡大され、その兵装が明らかになっていく。 「鬣の先端はレーザー照射装置になっている。喰らったらお終いよ。 耳の所はレーダーね。中の人がいないAI制御の兵器だから、高範囲レーダーを潰すのは得策だと思う」 ふむふむ、と五人は頷いている。いや、四人だ。 クーリーが手を挙げ、トルセにそれはなぜかと問うた。トルセは次のような例え話をし始めた。 例えば、人の顔をじっと見つめるだけでその人を殺せる能力をもったAという人物ががいたとしよう。 ただし、Aの能力は殺したい人物の顔の輪郭をハッキリさせておかなければならないとする。 視力が10.0のAならば、まさに脅威としか言いようがない。目隠しでもさせておかねば殺されてしまう。 しかし、視力の大半が失われてしまえば、遠くから攻撃する事が出来る。 つまりはそういう事なのだ、とトルセは言い、クーリーは納得し、そしてユールはトルセの次の言葉を聞いた。 「機密事項だけど、狭い範囲しか探知できないレーダーとウチのAIは相性が悪いのよ。 一応この兵器にもそんなレーダーは予備で積んでいるらしいけど、 耳の高範囲レーダーを潰せば視覚を奪ったようなものになると思うわ」 トルセが説明した兵器の他に、まだ二つの兵器がホログラフには示されている。 アリスがその他の二つの兵器について質問すると、トルセはこう答えた。 「顎髭の所、そこに放射状についている三枚のパネルのそれは ホログラフにも出ていると思うけど、レーザーブレード照射装置よ。 正面から接近戦を挑めばアレで焼き切られてしまう。 正面からの攻撃は有効じゃないってこと。死ぬ確率の方が多いし」 「じゃ、もう一つのコレは?胸の所に何か鉄柱が埋まっているような感じだけど」 「これは…バルカン砲だね。WSFが使っている中でもとびっきりの威力の。 それを喰らっても体はバラバラになると思うわ。 だから、絶対にあの兵器の正面に立っちゃ駄目。近づくなら正面以外ならどこでもオーケイ」 トルセはそこで言葉を切り、何かの操作をした。 すると、ホログラフの中の兵器の背中から後ろにかけてが青く光っていった。 「この青く光った部分は排熱のために何も武器を積んでいない。 排熱の効率を上げるためにも装甲は薄いし。だから、この青い部分が弱点」 「つまり、危険な真正面さえ避ければ楽勝な敵って所ね?」 「楽勝は言い過ぎだけど、戦いやすくなるといえばそうなるわね」 アリスの言葉を指摘しながらトルセは言い、次にホログラフ上の蠍型高機動制地兵器の姿を大きくさせた。 147 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 11 41 32 ID 00N8M60C0 「この蠍について説明するわね。 これは……あのライオンと同じように正面方向に対しての攻撃力が高い。 でも、ライオンが抱えていた『横または後ろを取られ続けると弱くなる』 という弱点をこの蠍はこの針で克服した」 トルセが言い終わると同時に、ホログラフの中の蠍の尾にカメラが注目、拡大されていった。 そしてその尾、そして針の名前が表示される。 「超振動粉砕針?」 ユールは「一体何なんだこれは」と言いたげにそれを読み上げた。 「文字どおり、あの針は目に見えないけれどかなりの回数の振動を起こしている。 超振動しているから威力は物凄く高い。今回相手にする四機の近接攻撃手段の中では 他を超越する威力を持っているわ」 「つまり、喰らったら即死……ということですか?」 クーリーが言った。トルセが即答する。 「そうね、どんな相手でも」 「僕とユールは、あの大きな箱に乗り込むんですよね。それだったら……」 「生身の人間と比べれば明らかに耐久力はそっちの方が上よ。 でも、この蠍の針の前では誰もが皆等しいわ。注意して」 そう言ってトルセはまた何かを操作した。ホログラフが動きを見せる。 映し出されているのは蠍の口元のあたりだった。そこには何か円筒状のものが突き刺さっている。 「これは火炎放射器『クリーンアップ』よ。 普通の歩兵が使うような火炎放射器と威力は変わらないけど、 あれは連続一時間は使えるはず。戦闘時間から考えて、放射時間は無限と捉えてもらって構わないわ」 「ひでぇ」 アルベルトが言った。「あのライオンとは比べ物にならないほど強ぇじゃねぇか」 確かに、これまで並べられた情報から判断すると、獅子型高機動制地兵器と比べれば この蠍型高機動制地兵器の方が強い印象を抱かざるを得ない。彼の言い分はもっともだ。 しかし、トルセはこれを否定するかのように言った。 「弱点がない事は無いわ。奴は正面180度の視界しか得られていないし、レーダーを積んでないの。 カメラの視力は…世界記録を持つ人の数字を軽く超えるけど、後方の視界情報は全く得る事が出来ない。 それに、アレにはもう一つ弱点がある」 「もう一つの弱点だって?」アルベルトが噛みつくように言った。 「もう一つの弱点は」トルセはそこで切って続ける。 148 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 11 49 58 ID 00N8M60C0 「あの蠍の全身はとても固い。装甲を攻撃で全部剥がすとなると相当な長期戦になる。 次の敵の相手をする事も考えれば、15分程度でカタをつけたいのよ。 でも、正攻法で行こうとしたらそれは無理。でも、脚を積極的に狙えば…… この八本の脚は比較的に装甲が薄いの。ここを攻撃する。 航空部隊がこれを狙うのは難しい。だから地上部隊がライオン戦と連戦になる。 それは航空部隊も同じなんだけどね。負担は地上部隊の方が上になるわ」 それを聞いたアルベルトはため息をついた。それと同時にアリスもため息をついていた。 どうしてそんな所が…双子だから?とユールは思いながらトルセに言った。 「航空部隊って、私とクーリーの事よね?」 「そうだけど」 「私は戦闘機を支援する支援機だけど、アル達の手伝いは出来ないの?」 「戦闘機に乗るのは…クーリーね。彼が大きな一撃を決めようとしたらね、 カーニバル自体の被害が広がりそうで……クーリー」 「何でしょう」 「ライオンの時もそうなんだけど、蠍と戦うときは威力の弱い兵装でもって地上に向けて撃って」 「分かりました」 「それと、ユール」 「なに?」 「クーリーもそうなんだけど、後であの箱型の飛行機の操縦方法を教えるけど、 兵装の一部を教える事は出来る。ちょっとした作戦があるんだけど、どうだろう」 トルセ、そしてアヤ以外のこの部屋にいた人々は一斉に「どういった作戦なのか教えて欲しい」 という旨の言葉を言った。トルセは顔をしかめ、一つ間を置いてから言った。 「ユールの支援機にある対地支援兵装『バインドレイン』というのがあるの。 特殊な弾を使って、敵の動きを封じるの。使いようによってはいい感じにアシストできる。 ユールはある程度ダメージを負った蠍に向けてこれを撃って、蠍の動きを封じる。 そしてクーリーが蠍の上でホバリングして撃つ。アルベルトとアリスも脚を撃つ。これで勝てる」 トルセはそう断言し、「次は烏賊型超高機動型制地兵器について」と言って装置を操作した。 149 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 12 00 35 ID 00N8M60C0 トルセが装置の操作を終え、ホログラフ上に烏賊型超高機動制地兵器の拡大図が映し出された。 ユールはそれを見てある違和感を覚えた。 「トルセ」 「ユール、なに?」 「これは…本当に、イカなの?」 確かに、これをイカと呼ぶのならば違和感はあり過ぎた。 普通のイカをイメージしてほしい。海中をゆらゆら泳ぐ。八本の脚をもって。 決して直立した姿勢でイカは生きてはいない。死んでも柔らかい体をしている。 しかし、この兵器はそんな所までは再現していなかった。 カクカクした八本の脚。その先端に取り付けられている高威力レーザー砲。 その脚に接続する鳥の足跡のような胴体。 脚と胴体の接続部分に浮遊する二枚の分厚い板。 そして、胴体の三つの頂点には四面体が載っていた。 そんなフォルムを果たして烏賊型、などと呼べるだろうか。 そこにユールは、いや、彼女の友人たち全員は疑問を抱いていたはずだ。 トルセは「イカよ」と答え、そして解説を始めた。 「これは海上で機動力を発揮するように作られている。 これにはアンチグラビティコアを搭載しているんだけど、 そういう特質を持った物を使っているの。だから、絶対に陸地には上がらないと思うわ」 「どうして」 「この機体の一番の強みは機動力。地上に上がれば海上での機動力は四分の一も得られない。 のろのろと動く的にしかならないし、装甲は他の三機と比べるとダントツに薄いから。 それで、コイツにはユールとクーリーの航空部隊で攻撃に当たってもらう。 コイツの強みは八本の自由に発射角度を照射中でも変えられるレーザー砲よ。 それに旋回能力だって高い。普通の動きだって速いから、逃げられるし、攻撃される。 ダメージ覚悟で速攻で当たった方がいいわ。弱点は胴体の頂点にあるこの正四面体ね」 トルセがそう言うと、ホログラフ上では正四面体がアップになった。 「これはこいつのジェネレータ。 このサイズで最高の運動能力を得るには、内部にジェネレータは詰められなかったみたい。 蠍の時の作戦のようにどうにかして動きを止めるかして奴を止め、 そしてこのジェネレータを破壊すれば私達の勝ち。イカは海に沈んでいくわ。 もっとも、素早く動くコイツに攻撃を与えられるかが問題なんだけど。 でもこいつを遥かに上回る厄介な敵が最後に待ち構えている。これよ」 150 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 12 08 22 ID 00N8M60C0 トルセは操作をしながら言う。 「さっきのイカも、次に紹介する奴もそうなんだけど、 地上部隊は一切手出しはしないで」 「何で」「どうして」 「ハモらなくていいから。台詞もあってないから。流れ弾が当たったらどうするの。 それで、次はこれ。『人型可変機動型制空兵器』ね。これについて話すわ」 トルセが言って、また例のようにこの兵器のアップ姿がホログラフ上に映し出される。 逆さづりになっている鳥だった。猛禽類のような、そんな鳥。だが、どことなく人に見える。 だが、その二本の脚は異常に長く、エネルギーを用いずとも 簡単に色んな物を切断できそうな程に鋭利なように見える。 (これが、この兵器を人に見える錯覚を生んでいるのかもしれない、とユールは思った) 更に、体からはその体長の数十倍程度はありそうなチェーンがくっついていた。 これらの兵装にトルセが解説を加える。 「この兵器は制空兵器とは言っているけど、制地兵器の役割も兼ねているわ」 「マルチロール、という訳か」クーリーが呟いた。 「そう。クーリーが言うように、これはマルチロールタイプ。 空にも地面にも攻撃しやすいように作られている。 翼の先端は全てレーザー照射装置。数えるのが面倒なほどの数があるわ。 そして、この異常に長い脚。モデルみたいよね。 そんなのはどうでもいいんだけど、コレは一応ブレードになっている。 近づくのは危険よ。離れていても翼のレーザーとこのチェーンがある。 この鷲みたいで人間のような兵器が動きまわればチェーンも動く。 ブンブン動く。ヤバいくらい動く。あり得ない程に暴れまわる。 その運動エネルギーを直接敵に叩きこむもの、これは相当な威力を持っているわ。 蠍がショートレンジタイプ、ライオンがミドルレンジタイプ、 イカがロングレンジタイプだとするなら、この鷲みたいな奴はオールレンジタイプといったところね」 トルセが説明を終了し、そしてホログラフの映像が黒くなって消えた。 そして彼女は五人に渡すものがあると告げ、再度兵器廠へついてくるように言った。 151 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 12 14 43 ID 00N8M60C0 相変わらず寒い廊下。この時間帯になって初めて見かける軍服の人々。 クーリーの隣、それも全員の最後尾で、ユールはそれらをどこか無感情な目で見て歩いていた。 彼女の頭に、先のブリーフィングで伝えられた事は最小限のそれしか残していないかった。 彼女が感情を潜め、重要な情報も忘却してまで考えていた事。 それは私や私達にとってあまり大切な事ではないかもしれない。 だが、彼女にとっては大切な考えるべきことであり、その為の時間でもあった。 私は、何という事を言ってしまったのだろう。 どうしてあの時、クーリーに酷い事を言ってしまったのだろう。 あの時だって、もっと前の時だって、私が困った時に彼は必ず手を差し伸べてくれた。 私のヒーローのような人だったんだ、クーリーという人は。 でも、それが当たり前のように思えていたんだ。 いつの間にか、私は愚者に成り下がっていた。それを当然だと思うのが愚かだったんだ。 それでも、クーリーは時々私の顔を何度か見てくる。 何か異常が無いか、具合が悪そうかどうか、見てくれる。こんな今でも心配してくれている。 私が小さい時から、私がクーリーの家に引き取られた当時から、 彼は私と一緒に行動していた。私の事をよく気遣う、今となんら変わらない善い人だった。 そんな人と会えた事に誰かに感謝すべきなのだろう。 そんな人と親友と呼べる関係になれたことを感謝すべきなのだろう。 だが、誰に?一体誰にそれを感謝すべきなのだろう。 神様だろうか。全ての人々を愛してやまない神様だろうか。いや、違う。 ならば死んでしまった両親だろうか。いや、それも違う。 二人と友人関係であったクーリーの両親は私の事をかわいそうに思って引き取った。 そうクーリーの両親から聞かされたじゃないか。でも、それでも違う。 そしたら、一体誰に感謝すべきなのだろう。一体、誰に? 152 :carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle-:2009/07/12(日) 12 25 09 ID 00N8M60C0 私がクーリーという素晴らしい人と出会えた事。それは誰に感謝すべきなのだろう。 分からない。一体誰を有り難く思えばいいのかは分からない。 でも、私がやらなくてはならない事が一つだけある。 私は、これからもクーリーと一緒にいたいんだ。だから、そのために。 「クーリー!」 「ユール!」 ユールはクーリーの名前を、一瞬遅れてクーリーはユールの名前を叫んだ。 お互いの顔は吃驚したようになって、そして申し訳なさそうな表情を浮かべていく。 二人の前を行く五人は二人の呼びかけの声に反応して振り返えり、足を止めた。 近くを横切って立ち止まった何人かの軍服の注目の視線も浴びながら、ユールが口を開く。 「クーリーに言わないといけない事があるんだ」 「僕も、君に言わなくちゃいけない事がある。けど、ユールが先に言っていいよ」 クーリーの返答を受け、ユールは頭の中で自らが言うべき言葉を並べた。 一つのテーマの中に。何個かの単語を並べて。自分の気持ちを。彼に。 「…ごめんなさい。私、クーリーの優しさを… いつの間にか当然の事だと思っていた。だから……」 ユールは頭の中で上手く纏めたはずの言葉を言えなかった。 言葉を重ねるうちに彼女の両眼からは涙が零れ落ちていき、もう言葉を続けることが出来なかった。 「ユール…」クーリーが優しく呼びかける。 「僕も悪かった。君のためだと考えて能天気な事を言っちゃったけど、 もうちょっと言葉を選ぶべきだった。特にこんな状況じゃね」 それから「ごめんね」と続けてPSCRを手に持ち、 そこから緑の布地に白のチェック模様の綺麗なハンカチを取り出した。 右手で涙を拭うユールは左手でハンカチを受け取り、そしてそれで涙を拭いた。 涙を拭いた後のユールの顔は赤くなっていた。まるで、赤ん坊が思いっきり泣いたような顔だった。 クーリーは無言でユールの頭を数回なで、そしてポンと軽く叩き、そして言った。 「これで仲直りだ。さ、一緒に行こうよ」 クーリーは笑顔で右手を差し出し、ユールは相変わらず赤い顔で笑った。 それからハンカチを持ち替えて左手を差し出し、元通りの仲に戻った二人は足を一歩前に踏み出した。 157 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/07/28(火) 01 11 51 ID RzMvA/8+0 それから数分が経ち、舞台は兵器廠に移る。 一度兵器廠中央に集合し、バレンタイン姉弟とキリーとトルセが散った。 ユールはアヤの顔を見た。ブリーフィングの時は遠くてよく顔が見えなかったが、 近くで見ると落ち着いた大人の女性、というような雰囲気が漂っているように感じた。 辺りには作業服を着たWSFの兵士と思われる人々が 色々なコンテナを作業機械を使って運送しているのをユールは見た。 「爆発物につき取扱注意」と赤色に塗装されたコンテナには書かれてあった。 右に流れていったそのコンテナを見送った後、ユールは左を振り返った。 そこにはエメラルドグリーンの直方体があった。隣には綺麗な青の立方体もある。 二つの箱にそれぞれ数人の作業員がくっつき、何かの作業をしているようだ。 アヤが自分のPSCRを取り出し、中から二つのゴーグル付きのヘルメットのような物と、 いつの時代で使っていた?と思わず言ってしまいそうな分厚い本を取り出した。 そしてユールとクーリーに口を開き、一つの質問を投げかけた。 「今からあの二機の戦闘機、支援機の操縦方法を教えるのだが、ここに二つの教え方がある」 ユールはアヤの言いたい事が分かった。 ヘルメットのような物を使ってか、それともあの分厚い本、いやマニュアルを熟読して あの機体の操縦方法を熟知しなければならない。私なら、間違ってもマニュアルは使いたくない。 「どっちの方が楽で、どっちの方がタメになりますか?」クーリーが尋ねた。 「どっちも、この意識シミュレータの方」 アヤはそう答えてクーリーに二つのヘルメットを渡した。 「意識シミュレータ?」とユールはオウム返しをしてアヤに聞いた。 「あの椅子に座って、それを被って。 ヘッド・マウント・ディスプレイ…HMDのゴーグルをつけて目を瞑って」 ユールはアヤに言われた通りに行動した。隣のクーリーを見ると、彼も指示に従っていた。 二人は椅子に座り、ヘルメットに備え付けられていたゴーグルを着用し、目を瞑った。 158 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/07/28(火) 01 17 07 ID RzMvA/8+0 「目を開けて」アヤの声がしたのでユールはそれに従った。 満月に照らされる何処かの海がユールの足元に広がっていた。 いや、彼女の足は海面から何十メートルも離れていたから足元とは呼べないかもしれない。 そして、視界全てが薄い緑に染まっていた。 下を見ても、上を見ても、左右を見ても、どこを見ても世界は薄い緑を通してユールの目に映る。 そして、ユールの目の前にはポップンの筐体があった。 画面はよく分からないものを表示している。選曲画面やプレー画面以外の何かの画面という事のみ分かる。 一体これは何だ?とユールが疑問に思う間もなく、何かが彼女の頭を殴ったような衝撃の感覚が彼女を襲った。 痛い、と感じる間もなく何かが流入していく。何か。これは何だろう。 情報だ。誰かが経験した動作、その情報をそのまま自分の頭の中に流し込んでいる。 感覚的に言えばそうなるだろうとユールは思考の片隅で思った。 不思議な感覚だった。まるで義務教育九年間で得られる情報を一気に流し込まれ、 そしてそれら全てを習得しているような感覚。確かに自分のものにしていく感覚。 ユールは不意にこの情報が何なのかが分かった。この支援機の操縦方法、応用の操作等だ。 筐体の画面を見る。初めて見た時には何が何だか分からなかったが、今では大体が分かる。 クーリーの家で音ゲー以外の何かのゲームをプレーさせてもらった事があるが、 大体そのゲームで言う所の「ゲーム画面」のような物で、要はどのボタンを押せばどの兵装を撃てるかが分かるというものだ。 これによれば、トルセの言っていた「バインドレイン」は右緑ボタンを押しっぱなしにすれば連続して撃てるはずだ。 「ユール」 いきなりアヤの声が聞こえた。 「なに、アヤさん?」 「アヤでいいわ。さん付けしないで」 「分かった。で、何?」 「たった今情報転送が終わった。意識シミュレータ内でしか今得た知識は使えないが、 このシミュレータの中で得た知識を実践し、経験として現実世界に持ち帰って」 「分かった。ところで、クーリーはどうしたの?」 「彼にも同じ事を言っておいた。でも、彼は高所恐怖症なんだって?」 「IIDXの何か気分の乗る曲でもかけてあげる事は出来ないかな? 前にクーリーはそうやって観覧車を克服したけど」 「BGM機能か。一応このシミュレータにはついている…」 「『エース』だ。観覧車の時に『エース』を聴いていたよ」 「『ダブルエース』ではなくて『エース』? 気分が乗るなら『ダブルエース』を聴いた方がいいと思うが、分かった。 これから一時間だけ時間を取るから、しっかりと私達のエースになって頂戴」 159 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/07/28(火) 01 24 28 ID RzMvA/8+0 アヤはユールとの通信を切って振り返った。 キリーとトルセ、そして後ろにはギター型エネルギー銃を ベルトで肩にかけているバレンタイン姉弟の二人がいた。 アヤが二人を見つめていると、アリスが心配そうにアヤに言った。 「アヤさん」 「だから、アヤでいいから。聞いてなかった?」 「すみません。気を取り直して…アヤ」 「何?」 「意識シミュレータって…大丈夫なんですか?」 さて、懐かしい解説の時間だ。 意識シミュレータって一体何だ?と思われているだろう。 特に過去の人間には。こう言うのも、この時代の一般人に街角アンケートの形で 「意識シミュレータと呼ばれる、仮想空間における訓練プログラムを知っていますか?」 などと訊けば、何を言っているんだと言わんばかりの顔を返答として返すだろう。 それだけ一般に広まっていない存在だし、広まる訳が無い存在なのだ。 意識シミュレータは、正しくは「意識シミュレータ装置」と呼ぶ。 もうお分かりだと思われるが、これは「意識空間での多種訓練を行うための装置」である。 意識空間とは人の意識の中で形成される場のようなものであり、 脳内のそこをつかさどる箇所に機械が干渉する。あのヘルメットがその機械にあたる。 機械は色んなシミュレーションや各種訓練を行うための空間を意識空間として生成する。 脳科学なんて全く分からないので、これが適切な説明かといえば全く分からない。多分間違えているだろう。 簡単に言えば、脳内で色々な事が出来る機械。色んな幻想、妄想を見せ、 それらが満たす空間の中でシミュレーション、訓練を行う。それが「意識シミュレータ装置」である。 アヤの言葉を使うなら、これの呼び名は「意識シミュレータ」だ。 この解説を見て頭が痛くなってきた、という読者はいないだろうと思う。 しかし、私の頭が痛くなってきた。 ちゃんと解説したつもりだが、きちんと伝えられたかが大きな疑問である。 頭の痛みを和らげるためにも、本筋の話を進めるとしよう。 160 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/07/28(火) 01 28 43 ID RzMvA/8+0 「大丈夫って、何が?」 アヤはアリスにそう返した。アリスは少しイラっとしたような顔をして言う。 「ユールとクーリーの事ですよ。 初めて知りましたよ、意識シミュレータだなんて」 「一般公開していないからな。というかコレは機密事項だった」 「……安全性は?」 「え?」 「安全性は大丈夫なんですか?不安材料は無いですか?これに、そういった物は?」 「不安材料は無い。今のところ、エラーを起こしたという事例は無い」 アヤの即答にアリスは納得のいかないような顔をして背を向けた。 トルセがアヤの横顔を見る。明らかに不機嫌な顔をしていた。 「アヤ、ちょっと」 トルセがアヤを少し離れた場所へ連れ出した。 三人に自分たちの話し声が聞こえないような所まで歩き、立ち止まった。 そこでトルセが青色のコンテナを背もたれにしてアヤを見た。 アヤもトルセと同じ姿勢を取って彼女の話を聞く。 「アヤ、イラつくのも分かるけど…」 「そんな顔してる?」 「してる。結構怖いよ、その顔」 「いつもこんな顔じゃないか」 「そうかもしれないけど、彼女の言い方には少し問題があったかもしれないって事。 それを話題にして話がしたかったからここに連れてきたんだけど」 「…何が言いたいの」 アヤの不機嫌な顔が更に歪んできた。それでもトルセはアヤの目を見て言うべき事を言う。 「彼女の言い方は悪かった。でも、彼女には仲間を思う気持ちがあったんだよ」 「それは分かるさ。ただ…」 「素人は黙っていろ、と」 トルセが鋭く低い声でそう言うと、アヤは少しの間逡巡してから返した。 「……何と言うかな、そんな感じだ。否定はしない」 161 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/07/28(火) 01 33 14 ID RzMvA/8+0 「でもさ」トルセが言った。 「素人とかそんなの関係なしにさ、 『彼』はユールに気の合う仲間と組ませて戦わせてあげたいって言ってた」 「『彼』って、あの人惑いの剣の人格?」 「うん。前の二度目の闇との戦いの時、仲間は沢山いたけど 『彼』は仲間達が傷つくのは見たくないとか思ったらしくてね。 だから殆ど彼一人で色々背負っていたから、死んじゃった」 その言葉を受けたアヤは何かの違和感を感じ取ってトルセの言葉を遮った。 「待って」 「どうしたの」 「二度目の戦いが起きたのと『彼』が死んだのはかなり離れている」 「色々事情があったそうよ。『彼』はあの剣を創って、そして闇との戦いに勝利した。 でもあの剣に込めた秘術が……ごめん、これから先は『彼』にも教えてもらっていない」 「いいよ。別にそこまで気にしてはいないから」 「そう…そういうことがあったから『彼』は普通では考えられない死に方をした。 どんな死に方かは言えないけど、『彼』はユールにそういう風に死んで欲しくないって言った。 それを回避するには、自分の信頼できる仲間と一緒に戦うしかないって。 そうする事で、ユールの命の安全が保障されるって」 アヤはそれを聞いて少しだけ笑った。 トルセはそれを見て「何がおかしいの」と聞くと、 「だって、戦いに行くのに命の安全って」 アヤはそれだけを言って返すと、今度は大笑いした。 それを見たトルセは怒った風に言った。 「ユール達は絶対死なせない。そう『彼』が言っていたでしょう? 私とアヤは直接戦闘には参加せずにサポートに回るけど、 その成果次第で彼女たちの生死が分かれるんだよ。 だから、素人の彼女たちを、プロの私達が精一杯サポートしないと…!」 162 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/07/28(火) 01 39 45 ID RzMvA/8+0 「元々あの二機は」 アヤがトルセに言った。トルセはアヤを睨むようにして見上げる。 「元々、何?」 「元々、あの二機は私とトルセに為に開発されたものだ。 無限に等しい力を持つと検査結果が出たアンチグラビティコア二基が 人惑いの剣と共に発掘された時、剣と共にこちらへ寄越された時、トルセは言ったじゃないか」 「何て?」 「『これで私達の航空部隊が完成する。防衛体制は完全に整う。 パイロットは私とアヤ。私が二番機でアヤが一番機』みたいなこと。 人惑いの剣は、今作戦の最終目標を倒すのに必要なんだろう? それまでユールは控えていればいい。あの二機には私達が搭乗すればいい。 あの素人達に事前情報を教え、そしてあの四機を倒させるなんて無茶言うな。無理だ」 「無理なんかじゃない。ユールは必ず勝ってくれる。 彼女は死なないし、彼女の友人たちも死なない。いえ、死なせない。 ねぇ、今だけでいいから、ユールとクーリーにあの二機を貸してあげましょうよ。ねぇ」 トルセは最後に頼み込むように言った。 アヤは少しの間考えた様子を見せ、そして「仕方がない」と返して続ける。 「奴らが機体を大破させたら、後でシメてやるけど、いい?」 「シメるのは駄目だけど、別のアイデアを考えておくわ」 トルセはそう返し、そして自分のMPDで誰かに連絡を取った。 MPDから洩れる音声とトルセの話によると、会話内容は何かを持ってきて欲しいというものようだ。 アヤは通話を切ったトルセに聞いた。 「トルセ、今の電話は…」 「あの双子の防護服を持ってくるように頼んだ。あと、数点の装備品をね」 「あの防護服と、あの靴とアレ?」 アヤの問いにトルセは首肯で返し、それからアヤに言った。 「ユール達の訓練が終わったら、アヤが私の代わりに言っておいて」 「何を」 「三つの部隊名とユール達五人のコールサインの発表」 「そうか。忘れていた…で?」 「航空迎撃部隊名は『ノエル』で。ユールがログ、クーリーがクウ」 「分かった。次」 「地上迎撃部隊名は『ダブルエース』で。アルがスペード、アリスがダイヤ」 「次」 「特殊部隊名は『ルーズ』キリーはダンサー、私がルセ。 アヤは…自分で好きなように名乗って。それじゃ」 それだけ言ってトルセは兵器廠を出ていくための道を歩き出した。 アヤはトルセに託された伝言を復唱し、そして元の場所へと早足で動きだした。 175 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/08/10(月) 21 50 52 ID vrLAzWIt0 さて、私の思う所をここに書かせて頂きたい。 物語のテンポを崩す事を了解してはいるが、どうしても書きたい事だ。 今までの話を振り返ると、SFファンタジーのような雰囲気が出ているだろうと思う。 何と言えばよいのか、過去の時代には出来なかった事がこの時代では出来ているはずだ。 例えばPSCRが挙げられる。私がこれを書いている時間から10年程前に開発されたものだからだ。 それと、年代的に無理だと思われる物が一つだけある。 アンチグラビティコアを用いた技術だ。これだけは絶対にあり得ない。 このコアが採掘できるようになったのは今から約100年前からとされている。 しかもその採掘場所は海底。海底に突っ込んだ隕石を採掘し、コアとして利用しているのだから。 いや、私が言いたいのはそういう事ではない。そういう事ではなく、別の事だ。 私の主観だが、ファンタジーという世界観での戦いとは剣や魔法が出てくるものだと思っている。 それにSF、つまり空想科学を持ち込むと、どこか現実のようでそうではない物が現れる。 例えばこの話で言うならばAGCVだろう。アンチグラビティコアを埋め込み、宙に浮く乗り物だ。 それにユール達が使用する兵器や武器。これらも読んでくれている人々にとって 空想科学の産物以外の何物でもないのでは、と思う。 だから、SFファンタジーの世界観での戦いは(私の主観だが)どこか現実味を欠いた現実になる。 ファンタジーでは剣と弓を操り、悪を滅ぼしていく者が勇者となる。 だが、私の考えるSFファンタジーは、武器の代わりに最先端の技術が用意され、 魔法の代わりに空想科学が奇跡を起こす。それに、誰もが勇者にも英雄にもならないし、誰もがなれない。 ユールの持つ剣に宿っている「彼」ですら、私にとってすれば英雄ではない。 私にとって「彼」は世界を救った勇者でもない。ただの人としか見る事が出来ない。 ファンタジーならば、主人公は強大な力を持っており、それをもってして悪を打ち破る。 その主人公は勇者となり、伝説となって英雄として語り継がれるだろう。その話の中で。 だが、SFファンタジーにおける戦いとは「戦争に近い戦い」ではないだろうかと感じる。 箱の戦闘機に乗り、ギターを模した銃を撃ち、踊ってエネルギーを溜めて放出する。 三つ目はどうかとは思うが、これは実際の戦争での戦闘に近い所があるのではないだろうか。 選ばれた存在も何も関係ない。シリアスな命のやり取りの戦いで、誰もが平等に戦い、誰もが等しく死ぬ。 それが、SFファンタジーにおける戦いのあり方なのではないか。 長くなってしまったが、簡潔にまとめるとなるとこうだ。 ユールは光に選ばれた存在だとか何だとか言われていた。 確かに彼女自身には変化が起きていた。この時、まだ彼女が気がついていないだけで。 だが、それを考慮しても彼女は一人の人間として戦いに臨む。 選ばれたとか、そういう使命感は一切抜きで。彼女は何者にも代えられない大切なものを守るために戦った。 あの時、ユールは私にそう言った。 他の四人も、それぞれに守りたい大切なものを抱えていた。だから皆で戦ったのだ。 自分だけではなく、皆で。誰もが自分の大切なものを守ろうとする姿勢を見せる、一人の人間として戦った。 176 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/08/10(月) 21 57 40 ID vrLAzWIt0 物語が再開した時刻は21 45だった。出撃まであと10分前である。 ユールとクーリーが意識シミュレーションを終えた後、 ユール達五人は徹底的に念入りに敵の大型制圧兵器四機の特徴について覚えこんでいた。 それから「ダブルエース地上迎撃部隊」として 地上迎撃にあたるバレンタイン姉弟に四点の装備が用意された。 靴の形をした加速器、背中に背負うリュック型飛行用ユニット、全身防護のための黒と赤のパワードスーツ、 ユール達が意識シミュレータ内で使用していたものとほぼ同一のゴーグルである。 キリーには「ルーズ特殊部隊」としてターミナルタワーWSF基地に残るように伝えられた。 一緒に戦えないのが残念だ、とキリーは不平を洩らしたが、 「キリーが踊って『パワー』を溜めておかなきゃ『トラップ』が仕掛けられない。 だからどうしても、キリーにはここに残って欲しい」 とアヤがなだめた。その声色も、その表情も、トルセと密談していた時と前後すると 幾分か柔らかくなったように見える…のは気のせいだろうか。 最後に「ノエル航空迎撃部隊」として航空迎撃にあたるユールとクーリーは もう戦闘機に乗り込んで中の異質な雰囲気に慣れるように言われた。 異質な雰囲気?とユールは訝しがりながらもエメラルドグリーンの箱に走って飛び込んでいった。 ぶつかる、と誰もが思っただろうがユールの体は箱の中に吸い込まれていき、 箱型のゼリーの中に人がいるような錯覚を第三者達に与えた。 かなり異質な搭乗方法だが、これがこの機体の正しい搭乗方法なのだから仕方が無い。 ユールが搭乗したが、クーリーは足を一歩も踏み出していなかった。 それをアヤが見て、そして彼女はクーリーに言った。 「怖気ついたか?」 「いいえ。最期に、もしかしたらの最期ですけど。まだ死ぬわけにはいかないんで。 …考えたくも無いけど、もし、それを迎える前に聴きたい音ゲー曲があるんです。少し長いですが」 構わないさ、とアヤが返し終わったのと同時にクーリーはMPDを取り出し、 ポケットからイヤホンを取り出して曲を聴き始めた。 carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle- St.2へ続く コメント 名前 コメント
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Actions [行動] Lift a total embargo a country [国家完全禁輸指定] Subsidize [助成金] Customs duties [関税] Exonerate [免税] Construction [建設] Dismantlement [解体] Contracts [契約] New contract 選択項目 Coal [石炭] Electricity [電気]Biomass-powered electricity [バイオマス発電] Fossil electricity [化石エネルギー] Geothermal-powered electricity [地熱発電] Hydraulic electricity [水力発電] Nuclear electricity [原子力発電] Solar-powered electricity [太陽光発電] Wind-powered electricity [風力発電] Fuel [燃料] Natural gas [天然ガス] Oil [石油] Uranium [ウラン] 選択項目2 Development of electrical stock [] Fossil energy [化石エネルギー] Nuclear [原子力エネルギー] Hydroelectricity [水力エネルギー] Onshore Wind [陸上風力エネルギー] Offshore wind [水上風力エネルギー] Geothermal [地熱エネルギー] Biomass [バイオマスエネルギー] Solar [ソーラー] The search for resources [資源探索] Oil platforms [海上石油油田] Oil wells [石油油田] Gas wells [ガス油田]
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226 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/20(日) 23 40 26 ID nvs7nVtF0 カーニバル上空 ステルス空中管制機「フェニックス」 20 25 スタッフ達に混じって自分の成すべきことを成し遂げているイロン。 観察役のスタッフから、ライオンの首がもげた事、 即ちユール達の勝利を聞き、それを伝えるためにルセコネクションで連絡した。 「勝った!あいつらだけでどうなる事かと思ったが、何とか倒せたな!」 「えぇ。やっぱり剣、いや彼、いや…彼女の言葉を借りるならマキナかしら? 彼の思惑通りに展開は出来ているようね。スペードの怪我は予想外だったかもだけど」 「マキナ?…あの人惑いの剣の事か。そんな風に言っていたな」 「そうそれ。それで、そっちに戦力の用意は出来てる?」 「彼らといつでも交代できるよう、10人の精鋭を用意していたが、取り越し苦労だったな」 「総帥がどこにヘリを着けたか覚えてる?」 そう聞かれたイロンは直ぐに自分の端末を操作し、求めている情報を探し出す。 「あった。そこから方位189に10キロほど離れた所にある島だ」 「えっと……あった。ドラム缶みたいな形をした島ね?」 「ただの長方形だろ…そう、その島。で、それが?」 「作戦があるんだけど、次に総帥が仕掛けてきたら、まずこっちで迎撃するでしょ?」 「決まってんだろ。それが?」 「迎撃して巨大兵器の注意を引いている内に、総帥のいる島を襲撃する」 考えたな、とイロンはルセの作戦を評価した。 防戦一方ではなく、こちらから仕掛けてみようというのだ。クロスカウンターのようだ。 しかし、それには問題点がある。フェニックスに搭乗するWSFの精鋭兵士たちの事だ。 「しかしなぁ、こっちは空に浮かぶ空母じゃない。フェニックスごと島に行くのか?」 「いいえ、乗り物はこっちで用意しておく。タワー屋上にでも置いておくわ。 とりあえずカーニバルタワーの上空へ移動してくれない?そうでないと」 「あぁ。兵士たちが降りられない。今そっちへ飛ぶように言うよ」 そう返して、イロンはスタッフ達に先の無線の事を伝えた。 スタッフ達は指示を受け、すぐさま自分たちの成す仕事にとりかかった。 227 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/20(日) 23 46 56 ID nvs7nVtF0 所変わって、舞台は第一ブロックへ移る。 獅子型高機動制地兵器はバレンタイン姉弟が属する 地上迎撃部隊「ダブルエース」によって止めを刺された。 戦闘中に右足を負傷したアルベルトと、傷らしい傷をそれほど負っていないアリスは 航空迎撃部隊「ノエル」のクウことクーリーが搭乗する機体から伸びる 機械腕に抱えられ、アルベルトの治療のためにターミナルタワーの屋上を目指していた。 アルベルトの負傷の進行状況は、深刻という程でもないが、 相当なダメージを与えるものとなっていた。戦いの緊張から解放されたアルベルトは 次の兵器と戦うまでの間、自分の右足を襲う激痛と戦わなければならなくなった。 アルベルトの右足には、紛れも無く穴が開いている。 足に装着していた加速器が、本来の役割とは違う防具の役目を果たしていなければ 彼の右足はとうに吹き飛んで存在していなかったかもしれない。 苦悶の表情を浮かべ、獣のような唸り声を上げる。 アリスがアルベルトに 「死なないで!死なないで!もう少しだから!!」 と声を送る。このダメージでショック死する事は無かったが、 もう時間が時間だ。一刻も早く処置を施さねば、アルベルトは出血多量で死んでしまう。 そんな二人を自機から垂らしている機械腕で持って移動させるクーリーは カーニバルタワー屋上である物を見つけた。仮設の手術室のようで、 よく医療を取り扱ったTVドラマで見る手術室にある器具や寝台が並べられている。 その近くには白衣を着た少し太り気味の男と、その助手たちであろう 若い男女七名が寝台を取り囲んでいた。準備は万端のようだ。 「スペード、ダイヤ、あともう少しだ。10秒もしないでそこに着く。すぐに治る。気をしっかり持って」 「クウ…か……もし…か…した……ら…俺は…」 「大丈夫死なない絶対死なない!見て、あそこの医者たち。あの人達がちゃんとやってくr」 「最期に……なる…かもしれ…ない、お前を、お前らを…普通の…名前で…呼びたかっ…た」 「死に真似なんてよしなさい!ほら、着いたからね! 体を預けて!私がお姫様だっこしなきゃ動けないでしょ!?行くよ!!」 「あぁ…姉貴……」死人が話す言葉のように、アルベルトの返したそれは聞こえた。 228 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/20(日) 23 51 40 ID nvs7nVtF0 (アイピーエス細胞と瞬間増血剤(※4)を用意しろ。いや待て、先に止血が先だろう! 一体君たちは何をやっているんだ!――どうだ、そこの君、彼の傷口は?) (銃創以外にダメージはありません。何かに感染した様子も見られません) (そうか、よし、このまま処置を続けるぞ! この子供を死なせては、後々厄介になってしまうからな、気合いを入れてかかるぞ!) ユールは機体内蔵の指向性マイクを使い、ターミナルタワー屋上で処置を受けている アルベルトの様子を窺っていた。指示をする医師とそれに従う医師のやり取りを聞きつつ、 イロンからの哨戒飛行命令を受け、アルベルトの身を案じながら周囲に注意を払った。 クーリーはアリスをタワーに立たせ、哨戒飛行を続けるユールの横に機体を並べる。 彼はログコネクションでユールと無線で会話を始めた。 「初めて命をかけて戦ったけど、ログ、大丈夫かい?」 「それは…いいえ、あまり良くないわ」 「そうだね…彼も怪我、しちゃったし。 次は何なんだろうな、蠍だとしたらちょっと不安だな…」 「何で?」 「そりゃ、奴が一撃必殺を繰り出す針をもっているからさ。 スペードがやられて、一番頭に来ているのは誰だと思う?」 「ダイヤかしら」 「そうだよ。彼女がどんな行動を起こすか分かったもんじゃない。 僕たちがもっと団結していかないと、次がどうなるか分からないよ」 ユールは無言を応答とし、クーリーの言葉を待った。 「ま、仲間ってのは信じ合うからこそ仲間って言うんだよね。 お互いが信頼しあえば、大丈夫だ。絶対に」 ユールの首にかけられているマキナが言った。 クーリーは「剣の人?」と答え、ユールがそれに返す。 「彼の名前はマキナ」 「マキナって……あぁ、あの駅前の喫茶店のマスターが言っていた、アレ?」 「かもしれないし、違うと思う。私の前任者のような人だよ」 「表現としては大体合っているかな。アr…ダイヤだったかな。 彼女が危なくなったら、僕がどうにかして彼女を守ってみせよう」 (※4 瞬間増血剤というのは、輸血効率を飛躍的に上昇させた輸血剤のような代物。 人体の造血システムに作用するものと、増血剤の進化版としての二種があるが、 アルベルトに投与されたのは両方だった) 229 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/20(日) 23 55 34 ID nvs7nVtF0 「ちょっと待って、ネックレスがどうやってダイヤを?」 クーリーはマキナにそう訊ねた。 実際問題、そうなのだ。どうやってネックレスが一人間を守るというのか。 「それは、彼女のおかげだよ」 マキナはそれを言ったきり、再び喋る事は無かった。 「彼女って…君かい、ログ?」 「別に私は何も。マキナは人を乗っ取るって言うけど、そんな気配は無いし」 「まぁ、あまり期待しないで、哨戒飛行を続けよう」 「…スペード、助かるといいんだけど」 「大丈夫。彼はそう簡単には死なないから」 2999/12/25/ 20 30 enemy huge offensive weapon hi-speed ground-to-ground attacker "SCORPION”’is approaching! ターミナルタワー内のWSF基地で、ルセが見ているの一つのモニターにそう表示された。 次の敵兵器が襲来したのだ。ブリーフィングで二番目に紹介した「蠍型高機動制地兵器」だ。 ルセはこれを受け、直ぐにタワー屋上に戦闘機を配備するよう通達したが、 未だにアルベルトの治療を続けているとの返答を受け、ため息をついた。 どこかに移動してからアルベルトの治療を続ければよいではないかと思われるだろうが、 彼の状態はそれが出来ないほど危険なものなのだった。 「おいルセ、東の海に異常が見られた。何だありゃ?」 「イロンね?蠍が来たわ。海面すれすれを高速飛行してこっちに近づくコンテナがある。 あの中に入っているの……ノエル2、応答して!」 「え、あの海から物凄い勢いで飛沫が出ているのって…」 「そう、蠍!今の内に攻撃して沈めておけばだいぶ楽になる!」 「卑怯だけど、どうこう言ってられないよ!」そう言ってノエル2ことクーリーは 一気に機体を加速させて東へと向かった。ユールも慌ててその後に続く。 230 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00 07 10 ID STG3w4xH0 「なぁルセ、お前の作戦、今は決まりそうにないぜ」 「……医師団に告ぎます。現在治療中の彼をどこかに移動させ、そこで治療して下さい」 イロンからのルセコネクションによる無線通信にルセは無言で応対し、 オールコネクションにしてタワー屋上の医師団の通信役に指示を出した。 「お言葉ですが、今の彼は大変危険な状態です。 後三分で一通りの処置を終えますので、それまで待って下さい。お願いします」 「分かりました。三分後にそこから立ち退き、治療を続行してください」 そう言ってルセは無線を切り、そしてため息をついた。 何故こうも上手くいかないのだろうか。全ては私のミスなのだろうか…… そう思考を巡らせていたルセの耳に、この司令部の部屋の自動扉がしゃっと開いた音が入る。 ルセが座ってた椅子を回転させて振り向くと、そこには汗だくになったキリーが立っていた。 「終わりましたよ…パワーゲージ、満タンです」 「御苦労さま。後であの部屋に戻っておいて。あなたのケアをするから。 それで…一体どういうメニューを立てて、短時間でフルパワーに出来たの?」 「MAXシリーズで詰めようかなって思ったんですけど、天ヒーにしておきました」 「ごめん、略称って分からない。とりあえずすぐに戻って。 指示があるまで休んでいいから。何か聞きたい事とかある?」 「話に聞いたんですけど、アルが右足を撃たれたって…」 「大丈夫。うちのプロがしっかり治療にあたっているから。心配しないで」 分かりました、とキリーは言って退室する。 その後ろ姿を見送り、ルセはパワーゲージをどのように使うかを考えていた。 キリーの溜めた力はどこにでも展開する事が出来る。カーニバル全体がそういう構造を取っている。 だいぶ前に先述したが、パワーゲージが1/30で缶を粉々に粉砕できるほどの力を有している。 しかし破壊力は必ずしもパワーゲージの使用量に比例するとは限らない。 加速度的に使う分量だけの破壊力を発揮できる、と資料にはある。 このゲージを5/30使うだけでも、ブロック間を繋ぐ橋を一本落とす事は十分に可能である。 蠍が橋の上に来た時、これによって橋を破壊し、海へと落としてフィニッシュを決める。 別のやり方もあろうが、ルセはこれが最良のような気がしてならなかった。 231 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00 14 11 ID STG3w4xH0 その頃、クーリーは海面に触れそうな高度で高速移動する巨大なコンテナに攻撃を加えていた。 操縦は積んでいるAIに任せ、コンテナと並走してカーニバル側に移動しつつ、 DPモードによるエネルギーライフル射撃を試みていた。 ユールもクーリーと挟撃するようにコンテナと並走し、左右の速射砲を撃ち続ける。 しかし、両者の攻撃は当たらない。狙いは正確なのだが射線がずれてしまうのだ。 その為、コンテナの姿を隠すかのような大きな飛沫が連続的に飛ぶ。 ユールはイロンにオールコネクティングで無線連絡をした。彼女なら何かアドバイスをくれるかもしれない。 「イロン!コンテナに攻撃が当たらない!!」 「ノエル1、もしかしたらそのコンテナはアードを積んでいるのかもしれない」 「でも、この大きさじゃ、積もうにも詰めないんじゃ…」 「きっと改良が進んだんだ、僕はそうじゃないかと思うよ」 「ノエル2の言う通りかもしれない。技術は日進月歩するんだ、考えられなくは無い」 そう言ってイロンは無線を切った。 畜生、とクーリーの声が聞こえる。このコンテナを海に落とす手段が無い。 よってユールとクーリーは役目を果たす事が出来ない。 「じゃ、これならどうなのよ!?」 ユールは叫び、コンテナと並走する機動を止め、コンテナの上部に移動し、 そこで並走しつつ、かなり近い距離で密着するかのような高度を保ち、 「バインドアーム…発射!!」 その号令と同時にユールは左右の黄ボタンを同時に押し、 機体下部から巨大な黄色の腕を伸ばし、コンテナに突っ込ませる。 流石にアードを積んでいるとはいえ、これを回避する事は出来なかったようだ。 黄色の腕がコンテナの両側を持ち上げる。 ユールの機体の上にはコンテナが身動きとれない状態で固定されている。 今しか攻撃のチャンスは無い、とユールは考えてクーリーに叫ぶ。 「クーリー、決めてやって!」 オーケイ、とクーリーは返し、DPモードにして、一瞬にして距離を詰め、 両サイドのエネルギーライフルの装備でコンテナにラッシュを仕掛ける。 瞬く間にコンテナはダメージを受けてへこみ、中の蠍も無傷では済まない様子を見せつける。 「決める!」とユールが呟き、黄色の腕を一旦下ろし、そして勢いよく振りあげる。 コンテナは天高く舞い上がり、それよりも少し高度の高い所にユールの機体が移動する。 ユールはすぐさま赤ボタンを連打し、レールガンを出現させ、それを連射した。 コンテナのアードは先のダメージで破壊されたようで、ユールの放った弾体は全段命中した。 232 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00 21 45 ID STG3w4xH0 レールガンの全ての弾体を浴びたコンテナは、空中で爆発し、中から巨大な蠍を吐き出した。 しかし蠍は第三ブロックには落ちず、そのまま東レイヴン海へと落ちていく。 蠍に潜航能力は無い。落ちれば最後、海中の資源ごみとなるだろう。 落ちていく。落ちていく。落ちて――― 予想される飛沫の音は上がらなかった。 蠍が海面に浮いている。いや、そういう風に見えるが、実際に「浮いて」いた。 「馬鹿な!!!」 そう叫んだのはキリーだ。続いてユールとクーリーも驚きの声を上げる。 「嘘でしょ!?」「やったと思ったのに!!」 しかし、これは現実なのだと言わんばかりに 蠍は海面すれすれの高度を保ち、遅いスピードで第三ブロックへと近づいていく。 ノエル航空迎撃部隊ことユール達二人は蠍に追いつき、攻撃を加えていく。 しかし、蠍の超振動粉砕針が的確に二人を捉えて突いてくる。 これを回避しながら戦うのは難しい。針は秒間2回は連続攻撃できる連射性能を持つ。 それに、どんな敵も一撃で倒せるというチートじみた攻撃力だ。脅威と言わずして何と呼べるだろう。 この時、フェニックスとWSFカーニバル支部の間で、イロンとルセの通話が記録されている。 「おい、蠍にあんな能力があったか?」 「いえ、そんなデータは…ないわ。ないのよ」 「技術は日進月歩だ、それならデータを載せるだろう」 「えぇ、ユール達とブリーフィングをした時の敵兵器のデータは 全てWSF本部にハッキングしてダウンロードした、正真正銘のデータなの。 それに、取得日時は昨日よ?日進月歩の説が当てはまると思う?」 「いや…あんな巨体を浮かすだけの技術は、一日じゃ無理だ」 「それじゃ、私達は偽物のデータを掴んだってことにわけ?」 「そうかもしれない…大体、あのライオンだって 最初にスペードが決めた時に勝負はついたはずなんだ。なのに、復活するなんて変だ」 「そうよね…もう、あのデータは信用ならないのかも」 「だが、敵の攻撃パターンを大体掴むことはできる。 現にあの蠍、針であの二機を攻撃している。大丈夫だ、彼らなら」 「あら、いつからそんな信頼を寄せたの?」 「ライオンを倒した時からだ。まさかやってくれるとは思わなかったからな」 233 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00 27 17 ID STG3w4xH0 ユールとクーリーは必死で蠍の進路を食い止めようとしていた。 しかし、あの超振動粉砕針の前には手も足も出ない。 超高威力の近接武器が蠍を固めている。分厚い装甲も、同じ役目を果たしている。 二機の飛翔する箱がいくら攻撃しようと、簡単に壊せる相手ではなかった。 「ねぇ、蠍の視界は正面180°じゃなかった?」 「そうだ、そうだったよログ、ありがとう!」 短いやり取りを交わし、二人は蠍の前で迎撃するのを止め、 後ろに回り込んでから総攻撃をしかけ始める。 それでも蠍の固い装甲が鉄壁の守りを見せる。戦略も何もあったものではない。 はっきり言って、二人の打つ手は無かった。 「これじゃあ、橋を落として…っていうのも出来ない。 航空部隊の攻撃だって、全くって訳じゃないけどダメージは与えられないし… あ、脚を破壊したら水面フローティング機能も無くなるかもしれない! ……航空部隊じゃ、狙うのは難しいかなぁ…うーん……」 ルセは司令部で呟いていた。周りはスタッフがいて、皆が同じ難しい顔をしている。 ここまで蠍の防御能力が高いとは思っていなかったのだ。 戦闘の経過を見ると、ハッキングして入手したデータに比較すると それに比べて倍近くの防御能力を有していると推測してしまった。 知ってしまった大きな事実。勝ち目は今のところ見いだせないでいる。 ルセはオールコネクションでユール達二人に叫ぶ。 無茶とは知りながらも、どうにかして頑張ってほしいと願っていた。 「どうにかして奴の脚を狙って!」 「無理でしょ!海面すれすれを飛んで、着水したらこっちがオジャンよ!」 「そうですよ、あなた達ならできるかもしれないが、こっちは素人…うぅ!!」 「クウ、大丈夫!?」 「今まで我慢してきたツケかな。凄く気分が悪い」 「どうにかして耐えて!少しかもしれないけど、ダメージは確実に与えられている!それじゃ頑張って!!」 無責任にも程がある!と憤慨したクーリーは意を決して180°回転して背面飛行に移行、 徐々に機体を海面に近づけ、手近な脚一本に狙いを絞って鍵盤を猛烈に連打していった。 234 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00 34 28 ID STG3w4xH0 クーリーの決死の攻撃によって蠍の右の一本の脚を破壊する事が出来た。 が、蠍はバランスを崩し、体の一部を着水させながらなおも突き進んでいく。 蠍のバランスの脆い所をユールがレールガンで徹底的に叩く。 次第に蠍の巨体が海に引きずり込まれるかのように沈んでいくが、 第三ブロックまで残り500メートルも無い。この調子では蠍が上陸してしまう。 ユールは食い止める事が出来なかったと悟り、ルセとイロンに向けて叫ぶ。 「ゴメン、海上での迎撃、撃墜は失敗した!」 「そうか…よくやった。いま、スペードの治療が終わった。 これから総帥のいる島に総攻撃をかける。 WSFの部隊が行くから、君たちは加勢しないで良い」 「私達だけじゃあの蠍は倒せそうもないですって!」 「えぇい、リーダーのお前がそんな弱気でどうする! いいかよく聞け、この世に絶対倒せない敵なんてものは存在しないんだ!分かったか!?」 イロンから短い説教を受け、ユールはすぐに心を取り戻し、 はい!と返事をして蠍への攻撃に移った。その時である。 「いざとなったら、僕が君たちを助ける」 マキナの小さな、それでも確かに聞こえる声がユールの耳に届いた。 ガシャアアアァァァ!!!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオォォォ……ドーン!!バーン!!! 色んな音が響いた。これらを採集すれば、きっと私好みの音楽が作れるだろう。 とうとう蠍が第三ブロックの港を破壊しながら上陸した。当然、港はぐしゃぐしゃだ。 第三ブロックについてはだいぶ前に先述したが、ここでもう一回書いておこう。 私自身が確認したいし、忘れている人もいるかもしれないからだ。 第一~第三ブロックは中世ヨーロッパの街並みである。 どのブロックでもひっきりなしに曲が流れているが、 流れている音楽のジャンルは、第一、第二ブロックのものと異なっていた。「ロック」である。 GFdmで人気の曲が園内スピーカーに大音量で響き渡る。 円形の島の中心から、クモの巣を張り巡らすように通路をかたどる建築物に囲まれている 広大な中央広場のライブステージでは、ひっきりなしに誰か彼かがバンド演奏をしている。 しかし、今はターミナルタワーで開催されている「トプラン決定戦」のために誰もいない。 そんな第三ブロックで、これから戦闘が開始されようとしている。 今度ばかりは誰かが死ぬかもしれない。誰もが少なからずそう思いながら、戦いのゴングが鳴らされる時を待つ。 237 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23 38 10 ID M5Pu08Oh0 2999/12/25 20 36 ノエル航空迎撃部隊の抵抗を切り抜け、第三ブロックに蠍が上陸した。 ただ上陸し、ただ上品にそこでつっ立ってくれるのなら全く問題は無い。 しかし蠍は兵器だ。高機動な制地兵器だ。そんな要求がまかり通ると思ったら大間違いである。 第三ブロックのライブステージとも言える中央広場の 巨大な円卓の上にアリスが臨戦態勢の構えを取っている。 ネックには手をかけず、ただひたすらにオルタし続けていく。 こちらから向かって迎撃するような真似はしなかった。 蠍が素直に広場に通づる道を通る訳がなく、辺りを滅茶苦茶に破壊しながら進むのだから アリスが自分から打って出る真似をしないというのは賢明な判断といえよう。 蠍は対になっている鋏を用いて前方に立ちふさがる障害物を切断、 針で粉砕し、通り過ぎる体で跡形もなくしていく。 そうしてようやくアリスの前に蠍が姿を現した。 キシャー!と奇声を上げ、口から炎を噴きながら体当たりしてくる。 アリスは加速器を使って右に走って避ける。 蠍の衝突の衝撃によって円卓が壊れていく音が辺り一面に響き渡る。 その音を聞いてからアリスが振り返り、 (あの蠍の全身はとても固い。装甲を攻撃で全部剥がすとなると相当な長期戦になる。 次の敵の相手をする事も考えれば、15分程度でカタをつけたいのよ。 でも、正攻法で行こうとしたらそれは無理。でも、脚を積極的に狙えば…… この八本の脚は比較的に装甲が薄いの。ここを攻撃する。 航空部隊がこれを狙うのは難しい。だから地上部隊がライオン戦と連戦になる。 それは航空部隊も同じなんだけどね。負担は地上部隊の方が上になるわ) ブリーフィングの時のルセの言葉を噛みしめながら、狙いやすい脚一本に狙いをつけて緑の弾を撃った。 爆音が響き、着弾とともに狙いをつけられた蠍の脚が吹っ飛ぶ。 アリスはそれを見届け、走って距離を取りながらチャージショットの準備をした。 238 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23 43 51 ID M5Pu08Oh0 「始まったな」 そう呟いたのは、ターミナルタワーの上空で滞空するフェニックスのイロンである。 彼女は観察役のスタッフと共に、アリスと蠍の戦いを観戦する。 アリスが二本目の脚を破壊したのを見て、アリスは観察役に言う。 「残りの六本の脚をこの調子で壊せたら、倒せるかもしれないな」 「そうですね。でも、そんなに上手くいくのでしょうか」 「心配するな。彼らならきっとやってくれるさ。 それより、島攻撃部隊の出撃準備は出来ているのか?」 「大体の準備は出来ているようです。 兵士輸送用のヘリが一機、地表攻撃機が二機。 これだけあれば、あの規模の島を制圧出来ます。 それに、あの島には総帥と数名の護衛しかいないはずです。大丈夫です」 イロンはその言葉を聞いてニヤッと笑い、最終的な準備が出来次第、即出撃するよう通達した。 「始まったか…」 そう呟いたのは、一通りの治療を終えたアルベルトだった。 簡素な移動式ベッドから起き上がり、周りの制止を振り切って装備を整える。 ゴーグル、パワードスーツ、加速器、ジェットパック、そしてギター型の銃。 それらをすべて装着したアルベルトは、医療班の一人の男に話しかける。 「なぁ、あそこで戦ってるの、俺の姉貴なんだよ」 「そのように話は聞いております」 「頼む。姉貴一人じゃ心配だ。行かせてくれ」 「駄目です。無理をしたら足の傷が…」 「アンタらのお陰でこの傷は塞がったよ。 だがな、姉貴を失ったら、その傷は一生塞がらない! 悪いがな……俺は姉貴を助けに行くぜ!!」 そう言うとアルベルトは加速器を使って医師団から離れた。 一直線に東に向かって走り、タワー中央で出撃し始めのヘリ一機と攻撃機二機を追い越し、 追い越した三機が動き始めると同時にタワーを覆っていたシールドが解除され、 タワーの縁でジェットパックを使って飛び上がったアルベルトは 島攻撃部隊と共にターミナルタワーを後にした。 239 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23 48 49 ID M5Pu08Oh0 アリスと蠍の戦いは、アリスがアドバンテージを握っていた。 アリスにはノエル航空迎撃部隊の支援がついているし、 何より彼女には蠍にはないものを持っている。 それは「心」だ。機械も同様に人工知能、即ちAIは持っている。 しかしそれを人の心と同じと考えるのは少し違ってくる。 あまり大きく踏み込んで書くと、あらゆる方面からのバッシングを浴びそうなので控え目に書くが、 人の心をもった機械なんて存在しない。そんなAIなどあり得ない。 機械が人になりたいと思うのをおこがましいと思っているのではない。 ただ、それが「あり得ない」と思うだけ。それだけなのである。 話がそれてしまった。本筋に戻そうと思う。 アリスの心が思う事は「大切なものを守る」ということだ。 それはユール達五人が全員一致で思っている事だが、大切なものの定義は五人ともバラバラだ。 彼女の場合、それは「アルベルトの命とカーニバル」になる。 前者は達成できるかどうかは分からないが、後者はこの頑張りでどうにか出来る。 その思いがアリスを強くしている。 色んな装備で強化された身体能力+αのαが、その心の力なのだ。 崩れ果てた円卓の瓦礫の中、ギターを構えるアリスと機械仕掛けの蠍が対峙している。 既に蠍は右の脚部を二本、左の脚部も二本やられている。圧倒的にアリスが有利だ。 コントロールバランスをどうにかして保っている蠍相手に 万全の状態のアリスがやられるはずがない。誰もがそう思っていた。 その考えは甘かった。 油断をしていたわけではない。だが、甘かった。 蠍の攻撃パターンは「突進→敵を追い回すように火炎放射→針の一刺し」であった。 しかし、そのパターンは六回目のシークエンスに突入してから変わった。 アリスは次の突進に備えて身構えていた。 今までがずっと同じワンパターンな戦法で蠍が戦っていたのだから、 そうするのは必然と言えるかもしれない。 しかしアリスの予想に反し、蠍は右の鋏をアリスに突き出した。 ジェットパックを併用して飛び下がるアリス。そこへ蠍の追撃が入る。 左の鋏が空を飛ぶアリスを叩き落としたのである。 勢いを持って石畳に叩きつけられるアリス。 武道の経験も無いので、ろくな受け身が取れず、悶絶する。 そこに蠍が高速で接近し、火炎放射器を収納する口を開く。 アリスが起き上がった頃には、既に蠍は炎を吐いていた。 240 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23 52 41 ID M5Pu08Oh0 炎が蠍の口から吹き出す。 それは勢いをつけてアリスを包み込もうとする。 そこに一つの影が割り込んだ。 「うおおおおぉっ!!あちちちちちちち!!!!!」 謎の影が出す声は、確かにアルベルトのものだった。 彼はアリスの盾になるような位置に立ち、結果として彼女の盾になり得ている。 「ちょっと涼しくしてやるぜ、そりゃ!!」 アルベルトが叫びながらネックの青ボタンを押さえ、思い切りピックする。 すると巨大な氷の塊のような弾体が炎の発生源、即ち蠍の火炎放射に向けて飛び、着弾する。 ガキイィィンッッ!!!と辺りに物が凍てつく音が響く。 火炎放射も止み、石畳が焼け焦がされたのを見ながらアリスは弟の声を聞く。 「俺は大丈夫だ!さ、チャージショットで火炎放射器を粉々にしてくれ!」 見ると、蠍の口の中にある火炎放射器は氷漬けになっていた。 これに強烈な衝撃が加われば、ほぼ間違いなく粉々に砕けるだろう。 アリスは迷わず緑ボタンを押さえ、ピック。 緑の弾体が爆音と同時に発射、飛翔、着弾する。 それと同時に、蠍の火炎放射器が氷漬けのまま粉々に砕け散っていく。 「よし!」「よし!」 珍しく二人の声が、セリフを一致させてハモった。 蠍は攻撃手段の一つを失くし、稼働可能な脚を総動員して後方にジャンプ、二人と距離を取る。 勿論、この間にも蠍は上空からクーリーの攻撃を受けている。 しかし、攻撃の威力や蠍の防御力の関係上、有効なダメージソースになり得てはいない。 蠍が攻撃パターンを変えてきた以上、蠍の動きに一層の注意を払わなければならない。 次に繰り出されるのは鋏か、突進か、それとも一撃必殺の針か。 答えは突進だった。アルベルトが左、アリスが右に避ける。 この後は火炎放射が来るのだが、それが無い以上どんな攻撃が来るか分からない。 蠍はその場でジャンプをして反転しながら尻尾を横薙ぎに振り回した。 尻尾はアリスに当たり、吹き飛ばして蠍が着地、次にアルベルトを左の鋏で突いた。 ギターを盾にしてアルベルトが鋏を受け止め、しかしそれでも彼の体は後方に吹き飛ぶ。 この一連の動作、大型の機械の動きとは考えられない程の俊敏さを見せつけている。 ライオンの機動もかなり速いものであったが、蠍の機動はライオンを上回っていた。 241 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23 56 25 ID M5Pu08Oh0 「あっ!」 ユールはアリス、アルベルトの攻撃を受けた場面を見、体をこわばらせた。 「マキナ、あの二人が…」 「大丈夫。僕がいる」 「あなたがいるからって…」 「すまないが、君の体を借りる」 「え?」とユールが返す。マキナが答える。 「僕は『魔剣』とか『人惑いの剣』とかって言われている。 それがどういう意味か、分からないと思う。…これからする事は、その意味を成すって事だよ」 マキナが喋り終わると、マキナ自身が強烈な光を発した。 ユールはその光を見ていくうち、自分の意識が急速に薄れていくのを感じていった。 それからしばらく、ユールは呆然としていた。 彼女は自分の意識を取り戻し、下の戦いぶりを見る。 蠍が本気を出してきたようだ。地上部隊の二人はどう見ても苦戦している。 それを見たユールは筐体をいじくり始めた。 「自動操縦にして…設定は滞空でいいか。…無線はこうか。 コネクション設定はクウ…こちらノエル1。ノエル2、聞こえるかい?」 「聞こえる…誰だ?ログじゃないな、答えろ!!」 「何で分かったんだ…君の言うとおり、僕はノエル1じゃない。 僕は彼女の体を借りている。外見は彼女だが、中身は僕だ」 「体を?…お前、マキナか?そうなんだな!?」 「察しが良い。いや、良すぎる…君は本当に一般人か? それにしては勘が研ぎ澄まされすぎてる感じがするが… まぁいい、ちょっと僕は地上部隊の手助けをしてくる」 「ちょっと待て。マキナ、ここから飛び降りる気か?」 「安心してほしい。もう既に、彼女の体は人間を超越している」 「なんだって?」 「そのまんまの意味さ。彼女は身体能力のレベルで言えば あの強化服を着た双子より少し上の程度まで進化している。『光』のお陰でね。 だから、ここから飛び降りても彼女は死なない。 もっとも、この時点で彼女の体が駄目になれば、僕も死んじゃうわけで。死ぬわけにはいかないんだ」 「機体はどうするんだ」 「自動操縦にしておいた。滞空させているから、護衛はよろしく。 地上への攻撃は僕が代わって担当しよう。すぐに決着はつくと思うから」 そう言うとユール、いやマキナは「すっ」と体を機体から離れた。 何の抵抗も無しにユールの体が重力に沿って落ちていく。 それを見つめるクーリーが呟く。 「マキナ…ユールを頼んだぞ……」 242 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/24(木) 00 06 46 ID CXjxjKMN0 アリスが攻撃を受けた後、彼女は無線でアルベルトに蠍を挟撃する作戦を伝えた。 蠍の後ろに回った方が残った脚をチャージショットで破壊するというものだ。 しかし、そう簡単に破壊させてくれそうに無かった。 アリスは自分と蠍が一対一で戦闘を始めていた時、 その時の蠍は本気ではなかったような印象を持ち始めていた。 後ろに回ったアルベルトが撃つ。 蠍が軽快なフットワークで回避する。 建造物に流れ弾が被弾、倒壊。 アリスが後ろに回るべく加速器を使って移動。 蠍が尻尾を振って接近を許さない。 不意に針が槍のようにアルベルトに向かって突き出される。 アルベルトが体を回転させて針を回避、攻撃を惹きつけるべく蠍の前へ出る。 鋏や針を使った攻撃がアルベルトに集中する。 その隙にアリスが五本目の脚を破壊。 蠍が自身の装甲をパージ(破棄)。バランスコントロールを管理する。 そんな中、蠍の上に影が上から落ちた。 その衝撃で蠍が地に伏せる。アルベルトがその影を認めると、大声で叫んだ。 「おい!なんでお前がそこにいるんだ!!」 「お前」と呼ばれたのは紛れもなくユールだった。 だが、その様子はいつもの彼女とは違う。雰囲気が違う。 そしてそれとは別に、彼女がここにいる事自体が異常だった。 その異常性に気づいたアリスがユールに叫ぶ。 「ちょっと、飛行機はどうしたの!?」 「自動操縦」とそっけなくマキナは答え、右手を自分の首に持っていく。 そして剣を結んでいるネックレスに手をかけ、ブチッと音を立てて鎖を壊した。 すると同時に剣が巨大化、大剣として機能するようになる。 「ログ、お前どうする気なんだ?」 「決まってる。蠍をぶっ壊す」 話し方がユールのそれではなかった。 そんな事はアルベルトもアリスも感づいている。 だが、今は状況が状況。そんな事でどうこう言っていられない。 「元々この体に宿っていた心は眠っている。今の彼女はこの大剣の心が支配している。 この蠍をぶっ壊したら元に戻すよ。全部ね」 ユールの体を借りるマキナは、双子にそれだけ言うと、宙返りをしながら蠍から飛び降りた。 carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle- St.5へ続く コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/battlesimutrans/pages/30.html
基本的なこと ゲームに使用する Simutrans のバージョンは 102.0、スケールは 64 一度に参加できるプレイヤーは 6 人まで ゲームの進行 1 ターンの長さは、ゲーム内部時間 1 年。その年の 1 月 1 日から 12 月 31 日まで 現実時間 1 週間以内に自分のターンをプレイし、セーブデータを指定のアップローダにアップする 期限までにセーブデータをアップしなかった場合、そのターンは飛ばされる (1 回休み) 場合がある 休みが 5 回以上連続した場合、そのプレイヤーはゲームの続行が不可能なものとして失格になる場合がある 年代設定は使用しない Freeplay モードは使用する 会社 称号、コーポレートカラーは自由に変更できる。ただし、本拠地を選択する順番に他社との重複がないこと 原則としてプレイ中には自社のみを操作し、他社は操作しない 失格となったプレイヤーの保有する交通経路、線路、道路、建物、乗り物などは、すべて撤去される 自社の現金の赤字は 3 年以内に回復すること 都市 プレイヤーは経営活動の拠点となる本拠地を選ぶ プレイヤーは自社の資金の範囲内で新規に都市を誘致することができる 都市の名前は変更できない。ただし、以下は例外である 自社の本拠地は、最初のターンのみ名前を変更できる 自社の資金で誘致した都市は、その都市を誘致したターン内のみ名前を変更できる 交通 最初のターンに設定する交通経路の中に、本拠地が含まれている必要がある 1 ターン中に、都市は 8 までしか接続することができない アドオン アドオンは、ゲームバランスを崩壊させない程度に好きなものを使うことができる。観光地などの建物で強大な旅客度・郵便度を持つものや、高性能なわりに製造費や運行費が安い乗り物などは自重してください
https://w.atwiki.jp/ace7/pages/62.html
MISSION 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 Farbanti 報酬 クリア報酬 34,000 ランクボーナス S A B C 135,000 114,000 93,000 タイムボーナス ~21 30 ~ 28 44~ 21,700 -50/秒 0 初回完了ボーナス 90,000 巡回ボーナス 67,500
https://w.atwiki.jp/umvsc3/pages/242.html
OPTION MODE CONTROLLER ボタンの配置を変更出来る。但しトレーニング関係の操作はここからでは設定出来ない。 OPERATION MODE 操作方法を変更出来る。 コントロールタイプとオートスーパージャンプの設定変更が行える。 HUD POSITION 対戦画面の表示を調整出来る。 体力バーとHCバーを好きな位置に設定出来るだけ。 SOUND 音のバランスを調節できる。 ボイスチャットのボリュームもここから設定出来る。 CHARACTER VOICE CAPCOM側のキャラクターボイスを日本語か英語に変更できる。 リュウの「ハドゥーケェーン」等はここから変更する。 SYSTEM ダウンロードコンテツ配信のお知らせの表示有無と 対戦中の字幕表示の有無を変更出来る。 RESET BATTLE RECORDS ある意味禁断の技。オンラインとオフライン両方の戦績を初期化出来る。 使い道としては、友人にプレイさせた際に強い段位まで上がってしまい、 本来の強さとかけ離れたときに使う。それぐらいしかないだろう。 ULTIMATE CONTROLLER(VITA版専用) VITA版アルカプがある人は、ここから連携の設定が出来る。 タッチ操作でお手軽コンボが可能になる。